「どうしたんだよ。暗い顔して?」
ハッと顔を上げると吾郎が立っていて、買ってきたジュースを掴み取る。
「なんか、あったのか?」
「ううん、なんでもないよ」
怪訝そうな顔つきの彼に、作り笑いで答える。
「まぁ、それならそれでいいんだけどよ」
「吾郎君、手をつないでもいいかな?」
「……?いいぜ、別に。何だよ変だぞ寿?」
繋いだ手のぬくもりを感じ、さらに切なさが込み上げる。
そのまま、先ほどの岩の側まで行って、腰を下ろす。
ちょうど、太陽が地平線に吸い込まれて行く所だった。
「綺麗だね」
「あぁ、すっげーな」
ほぅ……と思わず、感嘆のため息を漏らす。
「あのさ、寿」
「ん?」
「俺、眉村に明日返事する事にした」
眉村の名前を聞いて、昨日のことを思い出しムッとなる。
「あいつ、俺のこと好きだって言ってた」
沈み行く太陽を眺めながら、ポツリポツリと言葉を紡ぐ。
「あいつ、本気の目してたから……やっぱり、ちゃんと答えなきゃいけないと思う」
「……なんて言うつもりだい?」
「俺は、寿也が好きだ。ってハッキリ言う」
「それでも、諦めないって言われたら?」
「そん時は、そん時だ。どんなに他のやつに好きって言われても、俺はお前が好きだから」
それだけは、絶対に変わらない。
ぎゅっと握った手に力が入る。
お互い見つめ合い、自然と唇を重ねる。
啄ばむ様な優しいキス。
それだけで、寿也の不安は少しづつ消えていく。
完全に消えるわけではないけれど、それでも今こうして、二人でいられるのが嬉しい。
自分と同じ気持ちでいてくれる。
それだけで充分だ。
これから先のことなんてどうなるかわからないし、考えていても仕方がない。
「……帰ろうぜ。あんまり遅くなると、しかられちまう」
「そうだね」
仲良く手を繋いで、駅までの道のりをゆっくりと歩き出す。
二人が寮に着いたのは、午後八時を過ぎたころだった。
当然、門限を守れなかった為こっぴどく怒られ、罰として風呂掃除一週間を言い渡されたのであった。
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