「吾郎君から離れろ!!」
眉村はチッと舌打ちし、パッと手を放す。
「と、寿!?」
「お姫様を守る、ナイトの登場か。久しぶりだ……な、佐藤」
「眉村、君はこんなことして……許せない」
わなわなと肩を震わせ、睨み付ける。
「茂野とはただの幼馴染だろ? だったら、俺が茂野と何しようが関係ないよな?」
フンっと鼻で笑い、寿也を一瞥する。
「確かに吾郎君にとってはただの幼馴染かも知れないけど、僕にとっては大切な人なんだ。」
バチバチと火花が散る。
二人の展開についていけない吾郎は、呆然と立ち尽くしたまま動けずにいた。
(俺、どうしたらいいんだ?)
吾郎の気持ちは決まっていた。
今更、眉村に好きだと言われても、困るのだ。
困惑顔の吾郎をよそに、二人のバトルは続いている。
「まぁいい。でも俺は諦めないから」
吾郎を見つめハッキリと言い放ち、その場をあとにする。
辺りはシンっと静まり返り、ヒンヤリとした空気が残った二人を包み込む。
幸か不幸かこれだけ騒いでいても、誰一人起きてくるものはいなかった。
「寿、なんでこんな夜中にここにいるんだよ?」
「本当は明日帰る予定だったんだけど、なんだか胸騒ぎがして急いで戻ってきたんだ。」
やっぱり戻ってきてよかったと、眉村が去っていった方向をにらみつける。
明日にしていたら、吾郎がキズモノになっていたかもしれないと思うとゾッとした。
誰にも渡したくない。
肩に背負っていた荷物を長いすに置くと、愛しい幼馴染を後ろから抱きしめる。
「よかった。君が、眉村にキズモノにされてなくて。」
「キズモノって、お前。俺を何だと……」
振り向いたその唇にキスをする。
「ん……ちょ、寿……」
開いた隙間から舌を絡ませ、甘い蜜を掬い取る。
「はぁ……んんっ」
吾郎の口から熱い吐息が漏れる。
「タンマ、寿。ココじゃまずいって……っ」
確かに、こんなところを誰かに見られてしまっては大変だ。
急に我に返り、そっと唇を離す。
とりあえず、続きは部屋へ戻ってから。
かばんを持って、片方の手で吾郎の腕を掴むと、廊下を足早に移動する。
「手、離せよ。逃げたりしねぇからさ」
「約束だよ。吾郎君」
「わかってるよ」
恥ずかしそうに、寿也のあと追いかける。
なんだか不思議な気分だった。
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