「……たく、何でこんなことになっちまったんだ」
薄暗い洗濯室で自分の下着を洗いながら、吾郎はブツブツ文句を言っていた。
外では時々カーンと言う金属音が聞こえ、真っ赤に染まった夕焼けにボールが飛んでいくのが見える。
本当なら今頃自分もあの中にいて、ホームランを打っていたに違いないのに。
(寿が、あんなことするからだ)
あんなこと、の内容を思い出し思わず手を止める。
寿也にキスされ、押し倒されて不覚にも感じてしまった。
そればかりか、彼の手によってイカされてしまったのだ。
「情けねぇな、俺。」
洗面台に手を突きうなだれる。
「何さっきから、ブツブツ言ってるのさ。」
「!?」
突然耳元で声がして、飛び上がるほど驚いた。
「寿!? 何でここに!? お前練習はどうしたんだよ。」
「監督が、君の看病してこいって言うから」
「はぁ? 看病って、俺ピンピンしてるぞ?」
状況がうまく飲み込めていない様子の彼に小さなため息をつく。
どうやら、具合が悪くて休んでいると言うことを忘れているらしい。
「あのさぁ、一応君は今日の練習、病欠って事になってるんだよ。あんまりウロウロしてると、みんなに怪しまれるよ。」
「あ。そういや、そうだったな。」
すっかり忘れていた。
「とにかく、部屋へ戻ろう。」
半ば呆れ顔の寿也に、連れられて吾郎は洗濯室をあとにした。
もう外は薄暗く、グラウンドにも、ナイター用のライトが点灯し始める。
部屋に帰ってから二人とも黙ったまま、重苦しい空気が流れていた。
「さっきは、ゴメン。」
最初に口を開いたのは寿也だった。
申し訳なさそうに俯き、相手の様子をうかがっている。
「怒ってる……よね?」
「ああ。怒ってるよ。」
(やっぱり、当然だ。)
彼の言葉に、頭を大きくうなだれる。
嫌われても仕方がないことをしたのだから、怒るのも無理はない。
「止めてくれって、言ってんのにお前が止めないから、下着洗う羽目になっちまったじゃねーか。」
「は?」
予想外の答えがが返ってきて、寿也の頭に疑問符が浮かび上がる。
「もう、すっげー情けなくって……って、聞いてんのかよ、寿!」
ようやく、彼の言っている意味に気が付き、思わず吹き出しまう。
肩を震わせ必死に笑いをこらえている相手に、拗ねたような表情を見せる。
「何で笑ってんだよ。俺、怒ってんだぞ。」
「ゴメン、吾郎君。あまりに意外な答えだったからつい。」
そういっている間も、おかしさが込み上げてくる。
「もう、いい。 俺寝る。」
すっかり拗ねてしまった彼は早々に梯子を上ってベッドの上へ。
「吾郎君……。」
「なんだよ?」
「僕、君のこと好きだよ。」
「わかってるよ。」
布団にもぐったまま小さく答える。
(脈あり、かな?)
自分が思っているほど彼は怒っていないことを知って、ホッと胸をなでおろす。
それと同時に新たな野望を打ち立てた。
もっと彼を開発して、寿也無しでは生きていけないように仕込まなくては。
海堂を、辞めるなんて言わせない。
考え直してもらわなきゃ。
寿也は不敵な笑みを浮かべるのであった。
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