寮に辿り着くと、真っ先に自分の部屋の窓を開け悶々とした空気を追い払う。
太陽はまだまだ夏を思わせるほどの勢いだが、風はもう秋の風だ。
いつも、人の声が絶えない寮内は誰もいないためさすがにしん、としていた。
「静かだな」
誰もいない部屋に、自分の声だけが響いている。
こんなに静かなのは久しぶりだ。
みんなは今、六時限目の真っ最中。寿也も体育で汗を流してるはずだ。
その時、わずかに玄関の扉が開くような音がした。
職員の誰かが帰ってきたのだろうか。
その足音は、まっすぐに吾郎のいる部屋へと近づいてくる。
「やっべぇ」
見つかってしまっては、午後からの練習に出られなくなってしまう。
どんどん大きくなる足音とともに吾郎の鼓動も大きくなる。
足音は、ぴたりと部屋の前で止まった。
とっさに吾郎は寿也の布団へその身を隠す。
――ガチャッ――
部屋のドアが開いて誰かが中に入ってきた。
静香か、泰造か、それとも……?
絶体絶命大ピンチ!!
「……かくれんぼでもしてるのかい、吾郎君?」
「寿!?」
想像していた誰とも違う声に驚いて顔を覗かせる。
そこには、呆れ顔の幼馴染の姿があった。
「なんでお前がココに!? 授業はどうしたんだよ」
「休み時間に、君が暗い顔してふらふらと学校を出て行くの見掛けたから。急に具合悪くなったって言ったら、みんなが早退しろって」
もちろん、まじめな彼の言うことは誰一人として、疑うことはなかった。
「心配してたんだけど、ずいぶん元気そうじゃないか。」
ドサッと荷物を置いて吾郎の横に腰掛ける。
「いやぁ、頭痛がしてたのはホントなんだ。ガラにもなくいろいろ考えちまって」
「へぇ、吾郎君でも悩み事あるんだ。」
珍しいこともあるもんだ。
考えすぎで頭痛がするなんて彼らしい。
「お前のせいだろ。 寿があんなことするから。」
その表情にハッとした。
俯き、はにかんだ彼の顔はいつもとは別人のようだった。
そんな顔をさせているのが自分だと思うと、なんだか嬉しくなってつい口元が緩んでしまう。
「何がおかしいんだよ。」
明らかにムッとして睨み付ける。
「ゴメン。てっきり僕は、吾郎君は怒って口もきいてくれないんじゃないかって思ってたから。」
男にキスをするなんて、軽蔑されても仕方がない。殴られるのも覚悟していたのに。
「怒ってないの? その、キスした事」
「別に。お前、冗談で男にキスするようなやつじゃないだろ。 それに……」
(キスはイヤじゃなかった)
言いかけて、慌てて口を噤む。
「それに、何?」
「なんでもない。気にすんなって」
「待って、逃げるの!?」
立ち上がって出て行こうとする吾郎の腕を慌てて引っ張る。
そのまま、二人ともベッドに倒れこみ、寿也が押し倒すような形になった。
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