「はぁ、今日は満月か」
入浴を済ませ部屋に戻った吾郎は、ふとカーテンの隙間から見え隠れする月を見上げ深いため息をついた。
「寿也には絶対に見せらんねぇな」
「僕がどうかした?」
「ぅわぁああっ、と、寿也!!」
ボソッと呟いたとたん、腰に腕を巻きつけながら聞きなれた声が耳元で響く。
素っ頓狂な声を上げる吾郎に寿也は、何かまずいものでもあるのかと訝しげな表情を向ける。
「何が見せられないって?」
「なっ、なんでもねぇっ!」
慌ててカーテンを閉めようとしたその時、開いていた窓から風がビュゥっと入り込みカーテンがひらりと揺らめいた。
その瞬間、寿也の瞳にはまん丸な満月が映し出される。
「あ、……あ"ぁぅぅう」
低く唸るような声が響き渡り寿也はその場に蹲った。
(やべっ、発作が始まっちまった)
慌てて窓を閉めてカーテンで光をシャットアウトしたが時既に遅し、ゆらりと立ち上がった寿也の目がギラリと光る。
頭にはとがった耳がピンっと生えていて、口には鋭い牙。そしてお尻にはふさふさした尻尾が生えている。
そう、実は寿也は狼人間の血が流れていたのだ。
飢えた獣のような瞳でまっすぐに獲物を捕らえた寿也は少しづつ吾郎との距離を詰めていく。
寿也が一歩近付くたびに、ジリジリと吾郎は後ろのほうに下がっていく。
どんどん下がっていくとちょうどベッドの付近で足を引っ掛けられた。
「どわっ!? いってぇ」
ドスンと勢いよくベッドに倒れこみ、ハッと気がつくと尻尾をパタつかせた寿也が楽しそうに馬乗りになっていた。
「こ、こらっ! どけよ寿也!!」
「ヤだ」
キッパリと即答され吾郎は一瞬たじろいだ。
困惑する吾郎にお構いナシに首筋に鼻をつけて犬のようにクンクンとにおいを嗅ぐ。
「わっ!? くすぐってぇよ、寿也」
吾郎が僅かに体を捩じらせると寿也はクスッと笑った。
「吾郎くんの身体……凄く美味しそう、食べちゃいたいくらい可愛いよ……ねぇ、食べていい?」
「は、はっぁぁぁぁ!?」
ギラリっと寿也の目が光る。
ギョッとして顔を上げた吾郎の髪や、額や、瞼や、耳や、頬や、唇にキスの雨を降らせる。
チュッチュッと啄ばむようなキスを受け次第に吾郎の力が抜けてきたところで寿也は首筋にカプッと歯を立てた。
モドル/ススム