今回の遠征には茂野も一緒に来るかもしれない。
遠征の2日前に、阿久津と市原がそう話していたのを偶然聞いた。
吾郎本人に直接確認をしたわけでもないし、遠征の日程などを決める江頭からもそんな話は聞いていない。
まぁ、そんなものはただの噂だろうと、眉村は大して気にも留めていなかった。
・・・・・・・ところが・・・・・・
遠征当日の朝、さも当たり前のように吾郎はいた。
「今回試験的に同行する事になった茂野君だ」
江頭に紹介されて1軍メンバーにペコリと会釈する。
「ちぃーっす」
その仕草も、その声も間違いなく彼のもので、眉村は夢でも見ているのではないか・・と不安になった。
「よぉ、眉村。今日から1週間、よろしくな。」
「・・・・・・・あぁ」
スッと差し出された手に触れると、ほんのり暖かく人のぬくもりを感じて、一瞬表情が和らいだ。
夢じゃない・・・・。
いつも、寿也と一緒にいて、遠巻きでしか見ることの出来なかった彼が今、目の前にいる。
しかも、お邪魔虫(寿也)に邪魔される事無く自然に側にいられる。
それが、たまらなく嬉しかった。
はじめの数日は何事もなく過ぎて行った。
だが、やはり好きな相手には触れてみたいと思ってしまうもの。
気がつけば、いつも吾郎を目で追っていて、眉村は苦笑した。
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