――疲れた。
店を出て、寮へ戻る途中気だるい体に思わずため息が洩れる。
「薬師寺さぁ、全然自分から動こうとしないんだもん。僕疲れちゃったよ」
前を歩く薬師寺に聞こえないような声で苦笑交じりに出た言葉。
「何を言っているんだ。茂野は動きすぎだろ。あんなに動かれたら堪らん」
俺がそう言うと、佐藤はクッと喉で笑った。
「やっぱり、普通が一番、だよね」
「だな」
互いに納得し、苦笑が洩れた。
「薬師寺達はどうだったんだろうね?」
「さぁな」
「どうする? 君より僕の方が好くて鞍替えするとか言い出したら」
「!?」
冗談めかして嫌な事を言う。
まさか、そんなっ。
有り得ない。
そう思いたい。
だが、絶対にあり得ないとは言い切れない。
一抹の不安に駆られ、堪らず俺は薬師寺の肩を掴んだ。
「おい、薬師寺! お前、俺と佐藤どっちが気持ち良かったんだ?」
「!? ……っ! んな事、こんな往来の真中で聞くな馬鹿!!」
返事の代わりに、バッチーンと言う小気味いい音と頬に焼けるような痛みが走る。
「あーぁ、行っちゃった」
「真っ赤になって……可愛いヤツ」
ズンズンと足早に駈け出してしまった薬師寺を呑気に見送る佐藤と茂野。
結局、どうだったんだ。
気になったが、それ以降も薬師寺がその答えを教えてくれる事はなさそうだ。
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