「おいっ! 何かあったのか!?」
さっきの寿也の絶叫を聞きつけ、練習場に親父達が駆けつけてくる。
「なんでもありません」
眉村が何事もなかったかのような涼しい顔をして応対している。
たくっ、相変わらず冗談か本気かわかんねーやつだな。
まぁ、眉村は冗談なんかでキスするような野郎じゃねぇからたぶん本気……なんだろうな。
「おい寿也。 しっかりしろよ」
ゆさゆさと揺さぶると、やっと目の焦点が合う。
「吾郎君、大丈夫かい!?」
「大丈夫に決まってんだろ? たく、大げさなんだよお前は」
寿也が脱力したのを見ると、こいつがどれだけショックを受けたかわかるような気がする。
「茂野。 俺はあっちで練習してくる」
突然眉村が親父たちと出て行くと言い出した。
「つーか、一緒に練習するんじゃ……」
「佐藤と一緒じゃ、俺は邪魔みたいだからな」
ふっと自嘲めいた笑いを残し、扉が静かに閉められた。
「なんなんだ、あいつ」
「一応気を利かせてくれたんじゃない?」
スルリと腰に腕が回る。
「ちょっ、お前練習っ」
「消毒が先だよ」
言うが早いか唇に柔らかいモノが押しあてられる。
「ん……」
触れるだけのキスはなんだか異常に照れ臭い。
啄むように何度も唇を重ねているとだんだんおかしな気分になってくる。
「続きは……」
「ん?」
「ホテルに戻ってからだからな」
「あ、やっぱり?」
やっぱり? じゃ、ねぇっつーの!
ここで釘を刺しとかねぇとこのまま流されそうだからな。
「ほら、練習すんだろ?」
「わかったよ。仕方ないな」
ポンポンと軽く尻を叩くと、寿也は肩の力を抜いた。
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