「実は……さ、俺変なんだ」
「変? どこが?」
「うまく説明できないんだけど、ある人の事考えてたらすっげぇ胸が苦しくって……話とかしてる間もずっとドキドキ言ってて、まるで自分の心臓じゃないみたいなんだよ」
「……」
ギュッと胸の辺りのシャツを掴み、はにかみ笑いをする吾郎。
切々と語るその話を、寿也は黙って聞いていた。
吾郎の言う”ある人”が誰なのか。
自分の知らない人物を彼が想っているのだと知って、嫌な気持ちが膨らんでゆく。
「ねぇ、それって僕の知ってる子?」
「えっ!?」
一通り話し終わった頃、低い声でそう尋ねると吾郎は驚いて顔を上げた。
ジッと答え待っていると、見る見るうちに頬に赤みが差してゆく。
「ドキドキしたり何も手につかないなんて、その子に恋してるとしか思えないよ」
「恋!? ハハッまさか! ぜってー違う! それは違うよ、寿君」
予想もつかなかった言葉を聞いて、ブンブンと首を振る。
「どうして、違うって言い切れるのさ」
「どうしてって、だってその相手寿君だぜ? 男が男に恋するわけないじゃん」
「えっ!? 今、なんて言った?」
ほんの数秒前まで眉間にしわを寄せて仏頂面をしていた寿也だったが、彼の思いもよらぬ言葉を聞いて驚いて眼を見開く。
聞き間違いじゃないだろうか?
そう思い身を乗り出すと、吾郎は一瞬たじろいだ。
「ねぇ、吾郎君! 今、なんて言ったの?」
「え? 男が男に恋するわけ……「違う! その前だよ!」
すっかり目の色を変えて、至近距離で見つめられ戸惑いを覚える。
「吾郎君が、僕の事考えてくれてるって、本当?」
「え? あぁ、まぁ。やっぱり……変だよな、俺」
「ううん変じゃないよ。 凄く嬉しい!」
「うわっ!」
ガバッっと勢いよく抱きつかれ、バランスを崩した吾郎は床に尻餅をついた。
「ど、どうしたんだよ寿くん、ビックリするじゃんか!」
「ゴメン、凄く嬉しくって」
深いグリーンの瞳が吾郎を捉え、息がかかりそうなほど近くに顔がある。
抗議の声を上げた吾郎だったが、頬を撫でられてドキリッと心臓が跳ね上がりそれ以上何も言えなくなってしまった。
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