「今日は、ママたち居ないんだ。遠慮しないで入ってよ」
四年前、何度か入った事のある佐藤家は、当時とあまり変わった様子もなく佇んでいた。
当時二人がキャッチボールの練習をしていた空き地には既に家が建ち、その面影はなくなってしまっていたが、それでも寿也の部屋から外を眺めると不思議と懐かしい気持ちになった。
「空き地、なくなっちゃったんだな」
「うん一昨年、新しく家が建っちゃったから」
リビングから持ってきたお菓子やジュースをテーブルに置き、同じように窓枠に手をついて外を眺める。
肩が触れそうなほどの距離に寿也が居て、自然と頬が赤くなった。
「練習、どう? 頑張ってる?」
「……」
窓の外を眺めながら、そう尋ねると彼の肩がピクッと僅かに反応。
その質問に対する答えはなく、やはり何処か悪いのかと不安になる。
「何か、嫌な事でもあった?」
「えっ? そんな事ないけど、なんでだよ」
「今日の吾郎君、なんだか少し様子がおかしいから」
「っ!」
顔を覗き込まれ、言葉に詰まる。
「僕でよかったら、相談に乗るよ?」
にこっと笑うその笑顔に顔の火照りを感じてしまう。
寿也なら、この得体の知れない感情の正体を知っているのだろうか?
聞いてもらったら、少しは楽になれる?
暫くの葛藤の後、吾郎は意を決したようにその重たい口を開いた。
前/ススム