「はぁ……何やってんだよ俺」
家までの帰り道、吾郎は何度も立ち止まり空を見上げた。
家々の隙間から見える雲は、昨日までと変わりなくゆったりと流れていて、自分だけが変わってしまったんじゃないかと不安が押し寄せる。
「あれ? 吾郎君じゃないか」
突然降りかかってきた聞き覚えのある声に、ドキリと胸が高鳴る。
振り向かなくてもそれが誰だかわかる。
自然と赤くなる頬を押えつつ恐る恐る顔を上げた。
「寿君」
白を基調とした真新しいユニフォーム。
胸にはYLと赤い刺繍が映えていた。
自分と同じ練習の帰りなのだろう。自転車の籠にはグローブなどを詰め込んだカバンが入っていた。
「今、帰り?」
「あー、うん。まぁ、そんなとこ」
ただ、普通に会話をしているはずなのに自然と鼓動は早くなり手にじっとりと汗をかく。
そばに居るだけで緊張してしまっている自分に気が付き、頬をかいた。
「?」
寿也は寿也で歯切れの悪い受け答えに、首を傾げる。
いつもなら弾けそうなほどの笑みを称えて元気よく答えそうなのに今日は何故かそれがない。
どこか具合でも悪いのだろうか?
ふとそんな考えが頭に浮かび、徐に彼の腕を掴んだ。
「!?」
「ねぇ、今から暇なんだろ? 久しぶりに僕の家においでよ」
にっこりと笑顔でそう言われ、再び心臓が大騒ぎを始める。
ドキンドキンドキン――。
握られた部分から熱をもって身体がかぁっと火照りだす。
(俺やっぱ、変だ)
この間から、どうも寿也を思い出すたびに胸が苦しくなって仕方がない。
今まで感じた事のない感情に、戸惑いを隠しきれない。
「どうかしたの? 何か用事、ある?」
心配そうに顔を覗き込まれて、吾郎はブンブンと首を横に振った。
「用事なんかねぇよ。 なんか、久々できんちょーするなーなんて」
「なんだよ、それ変なの」
「だ、だよなぁアハハ」
クスクス笑う寿也につられて、吾郎はポリポリと頬をかいた。
前/ススム