「・・・・し、信じられねぇ・・・。隣に誰かいるってのに・・・こんな・・・」
ロッカーにもたれかかり、乱れた呼吸を整えつつ汗で張り付いた髪をかきあげる。
幸い誰も入ってこなかったからよかったものの、あの場面を目撃されたら大変なことになるのは目に見えていた。
「すまん。自分の感情を抑えられなかったんだ」
申し訳なさそうにしている眉村をキッと睨みつけ、その後はぁっとため息をつく。
「それにしても・・・入ってこなくてよかったな」
「・・・・まぁ、な」
実のところを言うと眉村は最中に部室のドアがほんの少し開いて寿也と吾郎に覗かれ、さらに二人と目が合ってしまったのだがそれはこの際言わないほうがいいだろうと思い、適当な相槌を打った。
そんな眉村に気がつくことなく薬師寺は立ち上がると、乱れた衣服を整え荷物を持って部室のドアを開けた。
辺りはもうすっかり暗くなっていて、ふと米倉と遊ぶ約束をしていたことを思い出した。
「しまったな・・・。なんて言い訳するか」
腕を組んで考えつつ、後ろから追いかけてくる眉村に一定の距離を取る。
「部屋以外で、俺の半径一メートル以内に近づくな!」
「冷たい奴だ」
「当然だろ。これ以上お前に襲われたら、困るからな」
そういいながら、眉村に荷物を預け、自分はさっさと米倉の部屋へ向かう。
「それ、ちゃんと部屋まで運んどけよ! お前のせいで約束に遅くなったんだから」
途中、くるっと踵を返し眉村にそれだけ言うと再び歩き出した。
「まったく・・・・なんて人使いの荒い」
眉村は小さくため息をつきながら去ってゆく恋人の後姿を見送った。
後日、薬師寺は寿也と吾郎に覗かれていたという真実を聞きさらにそれを彼が気がついていたということまで耳にして、激怒して眉村から逃げるようにそれから一週間は自分の部屋に戻ってこなかったそうな。
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