試合当日、俺は1番バッターとしてマウンドでアイツと対峙した。
ダメだ。試合中なのにドキドキして打てねぇよ。
少し遠くて表情はわからないが、ほんの少しだけ笑った気がした。
その試合結局俺は一度もバットを振ることは出来なくて。
まぁ最下位のオーシャンズ相手に、うちが負けるわけねぇけどな。
三連戦の初戦はうちが勝ち星を挙げて、俺は泊まっているホテルに戻ろうと先輩達と玄関へ・・・・。
入り口に、オーシャンズのユニホームを着たやつが立っている。
それが誰なのかすぐにわかった。
足がすくんで動けなくって先輩達に先に行っといてもらうように頼んで、俺達は二人っきりになった。
「久しぶりだな」
それが、眉村の最初の言葉。
その声が鼓膜を伝っただけで心臓がバクバクして、まともに顔が見れねぇ。
電話くらい寄越せとか、逢いたかったとか。負けて残念だったなとか言いたいことは山ほどあるのに、全部口から出てこなくって俯いていたら、突然抱きしめられた。
「ばっ・・・バカッ! こんなとこで・・・ッ」
「・・・・逢いたかった」
「!」
そう言ってさらにぎゅっと抱きしめられた。
どうしよう・・・。
こんな玄関前で、抱き合ってたら絶対まずいのに・・・・。
今までだったら絶対に平手打ち食らわしてるのに。
マスコミが見てんじゃねぇかとか他の仲間がまだ残ってんじゃねぇかとか、そんな事どうでもいいくらい嬉しくって、抵抗できない。
心臓が壊れそうなほどバクバクしてて、たぶん眉村にも伝わってる。
「ちょ・・離れろ・・・ほら・・・、俺、ちょっと臭うし」
「ん? 汗のにおいなら俺も同じだろ?」
「・・・・っ」
ちがうっ! 俺・・・こんな事が言いたいんじゃなくて・・・・。
だいぶ混乱している俺の口からはろくな言葉が出てこない。
「この近くに、俺が宿泊してるホテルがあるんだが」
顔を上げるとほんの少し赤くなって、俺に同意を求めているあいつの顔があった。
それっきり何も言わねぇけど、言いたいことはいやってほどわかる。
「しかたねぇな。着いてってやるよ」
そう言うとまた抱きしめる腕に力が入って、ちょっと苦しい。
それから俺達は帰宅ラッシュの済んだ暗い夜道を手をつないで歩く。
人が来たら速攻で離すけど出きれば誰もこないで欲しい。
繋いだ手からコイツのぬくもりが伝わってきてありえないくらいドキドキしていた。
前/ススム