薬師寺は何の疑いもなく僕の部屋についてくる。
先に薬師寺を中に入れてから、気づかれないように鍵を掛けた。
「で? なにやるんだ、佐藤?」
「セックス、しよ?」
近づいてきた薬師寺にまっすぐ見つめながらそういうと、ピキッと固まって動かなくなった。
よほど予想外だったのか、一分ほど思考が停止していた。
「おーい薬師寺? だいじょーぶ?」
僕がゆさゆさ身体を揺するとようやく我に返った薬師寺は、きつい三白眼を大きく見開いて、ギョッとした顔で僕を見る。
「何を言い出すんだ! 悪い冗談はよせっ」
「冗談? ハハッこれでも、僕は結構本気なんだけど」
僕の目が余程怖かったのかヒッと息を詰めて、じりじりと後ろへ下がっていく。
「おっ、お前には茂野が、いるだろう!? 何を血迷ってんだ!」
「それがさぁ、吾郎君もう一週間も戻ってきてないんだよね。だから、君を代わりに抱いてあげるって言ってんだよ。薬師寺だって眉村がいなくってご無沙汰だろ?」
「よ、余計な世話だっ!!!」
下がるところまで下がって僕のベッドまで追いやった後、僕は思いっきり薬師寺を突き飛ばした。
「ぅわっ」
あっけなく、ベッドに倒れこんだ薬師寺に覆いかぶさるようにして馬乗りになると手が飛んできた。
ふふっ甘いよ。僕はそんなパンチ効かない。
両手のパンチを受け止めてそのまま万歳の体勢で押さえつける。
本当にジタバタ往生際が悪い。
「薬師寺さぁ、あんまり暴れると痛い目みるよ? 痛いのが好きなら別に構わないんだけど」
「バカッ好きでもねぇのに、なんで、んなことすんだ!!」
「なんで? だから、遊びだって言ってるだろ?」
半なき状態の薬師寺に冷ややかにそういうとコレでもかってほど目を見開いた。
「まさか薬師寺って、愛がなくっちゃセックスできないなんて思ってるわけじゃないよね?」
「べ、別にんな事思ってねぇけど……」
「いいじゃないか。どうせ僕らはいくらヤッたって、子供が出来るわけじゃないんだし」
「そ、それは……そうだが、でも」
「でも何? 眉村がいるから?」
「あ、当たり前だろ!! お前だって、んな事したら茂野がどう思うか、わかってんだろ!?」
「ふふっ大げさなんだよ。ここには僕と君しかいないわけだし、遊びだって割り切ってればなんともないって。あ! そっか、薬師寺ってそれだけ眉村に惚れてるって事だよね」
「なっ!? 別にっソコまで好きじゃねぇよ!」
「でも、彼以外嫌なんだろ? 一生眉村だけを相手にするつもりなんだ」
僕がからかい口調でそういうと薬師寺は真っ赤になった。
「バッ、馬鹿にすんじゃねぇっ! 俺だってその気になれば別に眉村以外のヤツとだって」
「その気になれば、するわけ?」
僕の台詞に薬師寺は言葉に詰まる。
「じゃぁ、僕がソノ気にさせてあげるよ」
「えっ! い、いや……」
「ふふっやっぱり、眉村じゃなきゃダメなの? そっか、やっぱ愛ってすごいねぇ」
「あー、もう。わかったよ。ヤればいいんだろ」
そう言って、ぷいっとそっぽを向く。
素直じゃないのが災いしたね。薬師寺。
こうして、僕らの秘密の情事が始まった。
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