5/6 火 帽子が飛んだ日



5月6日火曜日


春がきて新しい1年生が入学し、私は当たり前だが2年生になった。
特に1年生の頃と変わった事はなく、平常運転の毎日を送っている。
ただ変化があったと言えば、図書委員で指名を受け副委員長になったことくらい。でも、1年の時から部活に入っていないから、火曜日以外の平日の放課後は毎日図書室のカウンターで過ごしているし、特に肩書きだけの副委員長だ。

見た目も髪が伸びた他たいして変わらず、身長は中途半端なところで成長を諦めた。あとはコンタクトレンズを使い始めたことくらい…でも、まだ慣れなくて土日くらいしか使っていない。成績はまあまあ上位にはいるが、ズバ抜けて才能があるわけでもなく、テスト前には人並みの勉強をする程度だ。
あと、自慢じゃないけど親しい友達はできなかった。天性の才能である人見知りは、教師が授業中私の指名を遠慮するほどだ。

ただ1年経っただけ。
きっと来年もそんな事考えながら、何も変わらない毎日なんだろうな。

そんなどうでもいいことを考えながら、デッサンパネル上のざらついた画用紙に見たままの景色を写す。
たった一つの趣味と言えば、休みに近所の公園で風景をデッサンすることくらい。
木漏れ日が差し込む昼過ぎの、穏やかな公園が好きだ。
目の前にはこじんまりとした控え目な小川があって、それに沿う様に花壇に花が咲いている。
それを綺麗な緑色の葉を揺らす木々の間、芝生の上に座ってデッサンし、鉛筆を芝生に置いた。

できた!我なが細かく描写ができている。

5月に入り、ゴールデンウィーク初日から最終日の今日まで、1日3時間コツコツと細かに始めたデッサンはやっと今、自己満足とともに完成したのだ。
ここらへんが特に気に入っていて…なんて独り言を口に出さず脳内で呟き、満足げに画用紙を見つめた。

一瞬、遠くの方から微かに木々の葉が揺れる音が聞こえた。すると、正面から勢い良く風が吹き、咄嗟に一番先に飛ばされるであろう画用紙を守った。

「あっ…!」

風は一瞬で顔を横切ったが、被っていたつばの広い帽子が背後にさらわれた。
慌てて帽子を目で追うと10mほど先でジャージを着た少年が芝生に座っており、そのままタイミング良く帽子を掴んだ。

男の子同じ年くらいかな?って、取りに行かないと!
焦って立ち上がろうとするも、帽子を掴んだ少年は私のことなど特に気にした様子なくスタスタと私に近寄り、スッと帽子を差し出した。

「…はい」
「あ、あ、ありがとうございまつっ…!!」

何てことだ、思い切り す を噛んだ。帽子は拾ってもらうし固まるし吃るし噛むし、本当に私は情けないやつだ…!

恥ずかしさのあまり顔が赤くなり少年の顔を見れずに帽子を受け取ると、持っていた画用紙とパネルを握りしめたままバッと立ち上がり、ダーっと走って家に帰った。



「…変なの」

公園で取り残された少年は走り去って行く髪の長い少女を見届ける。
ふと足元を見やると、芝生の上に取り残された布のペンケースと散らばった鉛筆に気がついた。
おそら走り去って行った少女のものだろう。拾い上げ散らばった鉛筆を収めた。







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