君を探して







夢を見ていた気がする。
懐かしくって暖かい様な、漠然としか分からないけどそんな夢だった。

唇に柔らかい触感があり、誰かに呼ばれた気がした。
暖かい夢からズルズルと引っ張り出され、目が覚めると知らない天井があって、起き上がってみるとどこか分からない部屋のベッドで寝ていた。


「おはよ」


隣にいたのは、2年前の少年よりも成長したリョーマだった。






小さい頃から引越しばかりで、その度に別れる話をするのが辛かった。
近所の人や学校でできた友達と何度もお別れをするのが嫌で深い関係を気づくのを自分から避けていたと思う。

特に恋を、私はしてはいけないと思っていた。

辛くなるのはお互いだから、絶対に結ばれない恋はしてはいけないと。







「リョーマー!」


バイトを終え、帰宅するといつも庭で一人何かを追う様にテニスをする年下の少年と話をするのが日課だった。両親が私と同じ日本人で、自宅以外での数少ない日本語の友達だったと言うのもあったかもしれない。

引越し手数日経った夕方、息を切らしているところに声を掛け、飲み物を差し入れたことがきっかけだった。


「サンキュ…これ好きなんだよね」

顔を赤くして飲み物を受け取るぶっきらぼうな少年がなぜか可愛くて、それから毎日の様に庭を挟んで仲を深めていったのだ。大切な弟の様な存在だった。

それでも、また親の転勤を知る。

教師から聞いたという高校の友達は夏休みの前にパーティを開いてくれて、嬉しかったけど思い出が増えすぎて辛くなるのが怖かった。
両親は慣れた様子で少ない家財や服をまとめ、私もそれに従った。


「じゃあね、リョーマ」


でも、隣の家のリョーマはまだ10歳と幼く、私は悲しませることを恐れついに話を切り出せずに引越しの日を迎えてしまった。
リョーマのために買った白いキャップも自分から渡せず、手紙を書いてリョーマの母親に託してロスを出た。

ずるいと言われてもしょうがないと思った。

でも、ずっと今のままのリョーマでいてほしくて、大切な弟を傷つけることが嫌だった。わがままな自分だった。




それから2年が経ち、あの時と同じ暑すぎるくらいの夏の日。
私はまた両親の転勤でロスに帰り、大学に編入した。

ロスの友達は私の帰りを喜び、毎日のように遊びに連れて行ってくれた。

そんな日々も何日か過ぎ、以前住んでいた家の近くを通ると、新しい家族がすでに住んでいる様子で、家の壁は新しく塗り替えられていた。


リョーマ…元気かな。


しかし、リョーマの住んでいた家はシャッターが閉まり、ドアには For rentの看板が下げられていた。
なぜか焦ってリョーマの通っていたスクールに行きテニスサークルを訪ね、リョーマの居場所を知る少年から住所を聞き、今は私自身の生まれ故郷である日本に居ることを知る。
会ってなにかを話したいわけではない、でも、リョーマに会いたい。

大学はまだ1ヶ月半夏休みが残っていたこともあり、今まで目的もなく貯めていた貯金と、祖母の家に遊びに行くという理由で親の許しを得て、ほとんど衝動的に日本にやってきたのだった。



祖父は私が生まれる前に他界しており、祖母は80歳と高齢であるも、20歳になる前から勤めていたというお屋敷の家政婦をまだ続けていて、片手で数えられるほどしか会った記憶がない私を笑顔で迎え入れてくれた。

次の日の早朝には祖母は仕事に向かい、私は用意された朝ごはんを有難く頂くと祖母から聞いた図書館へ向かった。都会の中にある図書館は小規模であるが公園も隣接されて緑に囲まれており、とても気持ちがいい木陰でが多く広がっている。

借りた本は昔、祖父が好きだったと聞いたシェイクスピア。

シェイクスピアの古典英語は丁寧に和訳されており、久しく日本語の本を読む私には少し難しい漢字があった。なんて読むのかなんて考えていると、木陰の心地よさについ眠気が差しいつの間にか眠っていたのだった。









目覚めて出会ったリョーマは成長していた。
身長はもう私とあまり変わらないほどかもしれない。
意地悪を言って私を困らせる癖は変わっていないのに、艶っぽい笑顔で私は少しドキリとした。

でも、それは恋じゃない。

純粋に嬉しかったんだろう。
変わらずに私と接してくれるリョーマが、ただ可愛いと思ったに違いない。


リョーマが飲み物を取りに部屋から出て行くと、私はベッドの上から部屋を見回した。
テニス用品とテレビゲーム、勉強机には中学校の教科書が並び、ハンガーに掛けられて学校の制服があった。その制服はフランスとアメリカで過ごした私には物珍しくて、ベッドから降りると制服をまじまじと見て着てみたいなとつい好奇心で手で触れた。
その瞬間制服の内側からカサっという音を立てて可愛らしい花柄の封筒が足元に落ちた。封筒の中心にはただ、リョーマ君へと書かれており住所がないところを見れば手渡されたか学校で渡されたのだということがわかった。

これは…間違いなくラブレターだろう。

確かにリョーマは2年前から凛として顔立ちは整っているし、クールだし…今は成長して少し色気も出てきた。年頃の少女には憧れの対象になってもおかしくない。

クスッと笑ってラブレターを拾うと、封が空いてないことに気付いた。

何で見てあげないの?リョーマ、気付いてないのかな?

可哀相だなんてちょっとお姉さんぶって思ってみたけど、リョーマに知れたら怒られるだろうとそっと制服のポケットに戻しておいた。
自分はまだ書いたことのないラブレター、どんな気持ちで自分の気持ちを伝えるんだろうか。



「何してるのさ」

「…!!」


リョーマがいつの間にか部屋のドアを開けていた。


「制服って珍しくて!」

「ふーん」

「別に変なこと考えてないよー!」

「変なことって?」

「あ、いや…着てみたいかなーって」


流石にラブレターを発見したなんて言えない私は少し焦りながらごまかした。
リョーマはそんな私を尻目にテーブルへ飲み物が入ったグラスをおき、ベッドに腰掛けるとこちらを向いた。


「着てみれば?」

「え?いーの?」

「別に、減るもんじゃないし」

「じゃ、じゃあ遠慮なく…」


以外とリョーマはすんなりと許可を出し、ベッドから立ち上がるとハンガーから制服をとってボタンを外した。
ラブレターは問題なくポケットから顔を出すことなく収まっており、私はホッとした。


「ほら、手出して」

「え?あ、着せてくれるの?」


リョーマの指示通り手を制服に通すと、腕丈が丁度良くて2年前から成長したことが身を持って実感できた。やはり、制服を着せてくれるリョーマはもう私と同じほどか少し高い背丈にまで背が伸びていた。


「前は自分でやってよね」

「っ!わかった…あ、あれ?」


ボーッとしていた私にリョーマは軽くデコピンし、前のボタンを留めようとするも


「(…胸だけ入らない!)」

「ふーん、菜々緒も成長したんだね」


それを意地悪そうな顔で口角を上げて見るリョーマがいて、羞恥心で顔が赤くなった。


「み、見ないで!ばかっエロリョーマ!」

「何とでもいえば?」


リョーマはそう言うと満足した顔で一番上のボタンを外し、自分で脱ぐと抵抗する私からスンナリと制服を脱がすとハンガーを掛けた。
なんで私よりずっと年下のリョーマに異性を感じたのか、少し動揺してベッドに腰掛けた。


「もう!ほーんと意地悪なところだけは変わんないんだから!」

「ん…何これ」


ハンガーに掛けた際ポケットに何か入っていうことに気付いたのだろう、リョーマがラブレターをポケットから出すと一瞥し、興味なさそうな様子でそのままゴミ箱に放った。


「…え?見ないの?」

「何が?」

「だってそれ、ラブレターでしょ?せめて見てあげないと女の子が可哀相でしょ」

「俺には関係ないね」


背を向けて話すとリョーマは私の隣に座り、ジュースを飲んだ。


「私だったら、好きな人には読んで欲しいと思うけど」

「だから?…菜々緒には好きな人いるの?」

「わ、私はいないわよ!」

「ふーん…俺は居るよ」


サラッというリョーマを思わず二度見してしまった。
このての話は少しまだ苦手、というより避けてきた自分にとって、落ち着いているリョーマが自分よりも大人に見えた。


「いっいるの!?」

「それくらいいるから」

「…いいなあ」


親の転勤で抑えていた恋愛。
でも、もう20歳を迎えた私は始めようと思えば一人暮らしだって出来るしもう親の転勤に振り回される心配もないだろう。




好きな人、もうできてもいいんだけどな。



















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