やっぱり君だった









今日も暑い日だった


午前の練習を終えて昼休憩を挟むため、青学テニス部員一同は部室に一度戻る。
今日の練習は走り込みを念入りにしていたため、いつもより皆くたくたに疲労していることが分かる。
関東大会で氷帝と戦い勝ち進んだ今、青学は追い込みをかけるかのように練習量が多くなっていた。

リョーマは白いキャップを外し、タオルで頭の汗をガシガシと拭い、また被り直した。
真夏の部室には昼食は置いておけないため、ほとんどの部員が近くのコンビニやファミレスへと向かう。
自分も昼食の買い出しに行くため、財布を取り出そうとテニスバッグへ手を突っ込んだところ携帯をつかみ出した



「太陽は手塚以上に容赦ないにゃ〜」

「いやー!暑さでまいっちまいますね英二先輩」

「ほんとだよ〜!」


菊丸と桃城が暑い暑いと愚痴を言っている隣で、リョーマはつかんだ携帯がピコピコと着信ランプが着いていることに気がつき画面を開く。
相手はつい先日九州に治療に向かった手塚部長からのメールだった。

内容はー"要件があるらしい、急ぎ連絡せよ 090-××××-○○○○"

部長から珍しいと思っていたが、よくわからない連絡だ


「おチビっ!携帯見つめてどうしたんだ?」

「まさか女か?越前のくせにいけねぇなあ!いけねえよ!」

「うるさいっすよ…手塚部長からっス」

「え〜!手塚から!?なになに!何てきたの!!」


越前は黙って携帯の画面を2人に見せるも2人はうーんと数秒考え、分からないとすぐに放棄した様子だった。
手塚部長も電話番号にかけろと言うなら相手の名前くらい載せると思うが、何か事情でもあるのだろうか

リョーマはため息をついて部室を出ると、渋々その番号へと電話を掛けた



「…もしもし」

『よおチビ助、俺様だ』

「げ……アンタが、何の用」


あからさまに嫌なやつと電話が繋がったため、一瞬切ってしまおうかとも思ったが、手塚部長からの連絡であったことを思い出して堪える
なるほど、敢えて名前を載せなかったのは跡部からだということか、確かに相手を知っていたら掛けなかったかもしれない


『女を預かっている、20歳前後の髪の長い女だ』

「ハァ?俺をからかってるわけ?」

『てめーの家の住所が書かれたメモを持っていただけだ、まあ知らねえならいい』

「じゃあ切る」

『アン?待て…名前がわかった。二ノ宮菜々緒だ』


菜々緒…?

ドクン…と大きく心臓が揺れた

怠い程の疲れが一瞬で抜ける


『おいチビ助、聞いてんのか』

「…なんで菜々緒がそこにいるのさ」

『知ってる女なら車をそっちに向かわす、説明はそこでする。受け取りに来い』






菜々緒がなんで日本に?
菜々緒は2年前にロサンゼルスから引っ越して、父親の転勤でパリに戻ったと母親から聞いていた
それに自分が都内に引っ越したことも知らないはずだ
しかもなんで氷帝学園にいるのか

さっぱりわからない、でも、自分の目で確かめないといけない

本当に菜々緒なら

…確かめたからって、俺にはなにもする資格はないけれど



跡部が向かわしたであろうシルバーの高級車が運動場横に付けられた

どうしても行かないといけない事が出来たと、大石副部長に伝えると快く許可がおり部活は早退することになった

名前を確認と礼をされ車に乗り込むと、運転手はすぐに車を出し30分も経たずに氷帝学園まで到着した


駐車場には氷帝学園テニス部の宍戸が一人立っており、自分を見るなり、すまねぇと勢い良く頭を下げた

どう言う訳なかのか手短に説明をされるが頭が混乱して菜々緒が倒れていたこと以外あまり内容が入ってこない、とにかく急ぎ足で保健室へ案内された



「よう、手間掛けさせたな」

「べつに…菜々緒は?」

「そこだ」



保健室へのソファーに掛けている跡部を一瞥し、すぐにベッドへ向かう

心臓がバクバクと早くなっているのがわかる



「菜々緒…」



あの頃より顔立ちは大人びているが、確かに覚えている顔だ。
白い肌も長い睫毛も変わらない、着ているワンピースも彼女が着そうな服。


ベッドに寝かされていたのは間違いなく菜々緒だった



思わず抱きしめそうになった


2年前、自分の前から姿を消した初恋の相手が目の前にいる


すやすやと気持ち良さそうな顔を見るのは初めてだった

事情とか場所とかすっかり忘れて、かわいいだなんて、柄にもなく思った



でも、どうしてここに?

跡部は少し混乱が醒めた自分に経緯を説明し、彼女が恐らく寝ているだけと医師から説明を受けたこと、本の中に住所が書かれたメモが挟まっていたことを知った。


「図書の貸出レシートに名前が入っていた」

「…ふーん」

「間違いなく知り合いか?」

「二年前の、隣人」

「アーン?確かてめーは去年までロサンゼルスだろ」

「菜々緒が先に引っ越した」



あまり、あの日のことは思い出したくなかった

あの日を忘れれない自分は、まだ彼女を好きでたまらなかったから


顔にかかる髪をそっと梳かし、こんな場所でも初めて優しく触れられたことに胸がいっぱいになる

ロサンゼルスにいた時、菜々緒の髪はまだ自然な黒色で肩下程の長さだった
大人になって女性が髪を染めることなんて特に不自然ではない。
高校生であった2年前の菜々緒しか知らない自分にとって、長くなって染められた髪も大人になった顔つきも見ない内にまた遠くに行ってしまった様で少しだけ悔しいと思えた。




跡部から保健室を閉めるため彼女と自分を家まで車で送る旨を伝えられ、菜々緒を背負い部屋を出た。



一向に目を覚まさない彼女に不安を感じながらも、目覚めたとしても何て話をすればいいのか不安な自分がいる

車の中で彼女の頬を撫でながら、このままでもいいかもしれないなんてバカなことを考えていた。







自宅に着くと、彼女を自分の部屋のベッドへ寝かせた。
















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