1年後のわたし




「一球入…魂っ!って、ああっすみません宍戸さん!」

「ばっか!どこ飛ばしてんだ長太郎!!」


晴れた夏の休日、都内のストリートテニスコートで氷帝学園のダブルス宍戸と鳳は午前の練習を終えてから昼食の前に学園を少し離れ、自主練習をしていた。

始めるやいなや長太郎のスカッとサーブは向かいのコートで構えている宍戸のはるか頭上を飛び、フェンスの向こうの公園へとボールが消えたが…
いつものことのように二人で手分けをしてボールを探していると、長太郎はワンピースを着た女性が芝生の上で横たわって居るのを見つける


「たった、大変です!し、宍戸さん!!!」

「ああ?どうし…ってうそだろ!!」


二人で女性の元へと駆けつけると1mも離れていないところにボールが落ちていた
おそらく自分達が飛ばしたボールに違いないだろう

「お、おれのせいで、女の人が…」


長太郎はショックのあまりか顔を真っ青にし、その場に倒れこんだ


「お、おい!お前まで何やってんだ!」


宍戸は急いで女性の様子を確認するも、寝ているかのようにスースーと穏やかな表情をしている
携帯を取り出しそのまま自分の部の部長に電話をかけた










「で、二人とも倒れて居た訳か」

「悪り!俺がいながら…」

「まあいい、この女はそもそもどこも怪我しちゃいねえよ」

「ほ、本当か跡部!」


学園内の保健室に辿り着いたのは先程。
跡部が5分もせずに自身の召使を寄こし、同乗していた医師とともに倒れていた二人をこの学園まで運び出した
どうやら医師の見解では全く異常が見当たらず、寝ているかの様だとの事だそうだ

ストリートテニスコートから学園までダッシュで駆けつけた汗だくの宍戸は、安堵のため息と共にドサリとソファーになだれ込んだ

跡部はさも落ち着いた様子で部日誌を書き続けている


「宍戸、テメー俺様を救急車みてえに使いやがって。次はねえからな」

「悪りいって!もう次は「おい!長太郎のスカットサーブで犠牲者が出たんだってな!」

「こらこら岳斗、保健室では静かにしいや」


いきなり保健室のドアが開いたと思えば茶々を入れに来たのであろう忍足と向日の二人が騒がしく入ってきた

それでも跡部はしれっと日誌を書き続けている
女性のためカーテンを引いているベッドに近づく向日を宍戸は慌てて制止した


「おい、なんで長太郎まで寝てんだよ!」

「…気絶したんだよ」

「ぷっ!激ダサだな!」

「俺のセリフパクんな!」

「で、このかわい子ちゃんはだれや」

「ばっ!テメー見んな変態メガネ」


向日とやりあっていると、忍足はいつの間にかカーテンを開けてまじまじと女性を見ていた

倒れているのを発見した際には動揺から顔なんて見ていられなかったが、改めて見ると整った小顔に長い睫毛、白く細い首に掛かるサラサラとした髪に言い様のない色気を感じ、一瞬で顔が熱くなった


「ほーう、宍戸のタイプなんやなぁ」

「っ!んな訳じゃねーよ!」

「うわっ宍戸顔真っ赤!ダッセー!」

「ほら見てみい、図星や」

「うるせー!違うって言ってんだろ!」


「…テメーらうるせえぞ」


日誌を書き終えたのか跡部は立ち上がりベッド脇に置いてある女性の少ない荷物を手に取る。

倒れていた付近に散らばっていたのは3冊の文庫本だった

なんとも頼りない情報だ


「跡部、何の本だ?」

「ハムレットに真夏の夜の夢、オセロ…この女はシェイクスピア好きか?」

「ふーん、面白いのかー?シェイクスピアって」

「お前らが読む様な本じゃねぇ、戯曲だ」

「ああ、舞台とかでやるやつや、ロミオとジュリエットとか言うんもそれやろ」

「お、ここに紙が挟まってるぜ」


真夏の夜の夢、と書かれた本には1枚の白いメモ用紙が挟まっていた
宍戸がそのメモを読み上げる


「東京都…青春台?ああ青春学園のほうか」

「アーン?貸せ、探させる」


跡部はメモをつまみ取るとおもむろに携帯電話を出し、誰に掛けているのかわからないがそのまま住所を読み上げた
その様子を見ると恐らく自身の召使に連絡している様子にみえる

「…なに?間違いないのか?…ああ、手間掛けたな」

「なんかあったのか?」

「ハッ!青学にいるチビ助の居る寺だそうだ」

「はっ!?越前か?」

「ほんまか」

「じゃあこの女、越前のねーちゃん!?」

「まだわからねーだろ」




再度携帯を取り出し、跡部はよく知る旧知のライバルへ電話を掛けた

きっと今頃九州でのんびり療養しており、暇に違いない









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