MERRY CHRISTMAS!

こうなってから知ったのは、こいつが案外少女らしいものを好むのだ、ということだった。
ひらひらしたスカートだとか、足首にストラップのついた踵の高い靴だとか。色は淡いもののほうが良くて、アクセサリーは華奢なもののほうが良い。別にそれに対して言うことはない──いや、1つある。あまり踵の高い靴を履くな、ということだけは再三言っていきたい。ヒーローになるため昔から鍛えてきた弊害か、平均こそ超えたが伸び悩んだ身長が情けないことに逼迫されるのだ。
名前が女になってようやく見下ろすことができるようになったというのに、こいつときたら容赦なくえげつない高さの靴を履いてくるのだ。よくそれでふらつきなく歩けるものだとある種関心するが、しかしそれはそれだ。せめてあと2、3cmは下げろと思う。もしくは俺の身長が伸びろ。
話を戻すが。要は俺は悩んでいるのだ──クリスマスに何をプレゼントすれば良いのか、と。
今まではさほど困ることもなかった。マフラー、ヘッドホン、タンブラー……その他はまあ菓子とかか。中学三年間はともかく、その前までは小学生だったのだから仕方ない。何だってたかが幼馴染とクリスマスプレゼントの交換などしているのか疑問に思わないでもないが、別段苦でもないし今まで続けていたわけだが……今年は、果たしてどうすれば良いのだろうか。
欲しがりそうなもの、と言われてすぐに浮かんでくるものもなく、じゃあ好きなものは、と最近あいつが購入した物ものの数々を思い浮かべてみればそんなのばかり。案外少女らしいものを好むのだ、とわかったところでさらに謎が深まるばかりだった。女が欲しがるものなんてわかるはずもないし、普段話すメンツの中で唯一そちら方面に明るそうなアホ面はいるが、それを頼るのも癪だった。
何故こうまで俺が悩まなければいけないのかと苛立たないでもないが、“買わない”という選択肢もまたないわけだ。長年の慣習を終わらせるつもりもない。とにかく、クリスマスはもう目前だし、早く決めなければいけないだろう。
……そういえば、名前は服やら何やらを買い直していて、金が足りないとぼやいていたのを覚えている。冬物の私服は買っていたし、制服の上から着られるようなコートも買っていた。マフラーはサイズも関係ないから買っていなかったが。しかし、最近手袋をしているところを見ない。今まではこの時期、手袋をしていたのだが。去年のものは当然サイズが合わなくなっているだろうが、しかし新しく買いはしなかったのだろう。私服、コート、靴等買っていれば当然金は嵩むものだろうし、そこまで手が回らなかったのだろう。単純にその時欲しい物がなかったという可能性もなくはないが。今になっても手袋をしていないということは、これから買うのかそもそも諦めたのか。何にせよ、“今持っていない”ことは重要だ。プレゼントはそれで良いだろう。……となれば、どこで買うかだが。それに関してはまあ、名前が気に入っているブランドの店にでも行けばいいだろう。……あの中に入っていくのは、嫌でないこともないが。


***


クリスマスには会う約束をしていた。そう、デートと言っていい。まあイルミネーションが見たいというので見に行くついでにどこかで何か食べる程度なので、陽も落ちかけた夕方に出かけることにしてあるが。家も限りなく近いとなれば待ち合わせなどする必要もないし、支度を終えてからスマホに連絡を入れて名前の家に向かう。
インターホンを鳴らせば、少ししてドアが開いた。てっきり名前が出るかと思ったが、出迎えたのはおばさんだった。

「ごめんね勝己くん、あの子まだ支度終わってないのよ。もうすぐ終わると思うから、上がってって」
「っス」

珍しい、とはいえ予定していた時間を越しているわけでもないし、そんなものか。しばらくリビングのソファに座りながらテレビを見ていれば、階段を駆け下りてくる音がする。ここで足を踏み外したりするようなとろ臭さはないと思うが、それを器具するくらいには忙しない足音だった。普段の様子に似合わず。

「ごめん勝己!待った?」
「待ってねえよ」
「そう……や、ごめんね。行こっか」
「ん」

ああ、デートだな、と。改めて思ったのは、名前が普段より華やかな格好をしているからだろう。普段からひらひらした服を好んで着てはいるが、それでも普段はラフさもある。今日は……一目でそれとわかるような服装をしていたし、髪もそうだ。巻かれている。結局予定していた時間を越すようなことはなかったが、仮に遅れていたとしてもこれなら許した可能性が限りなく高かった。
玄関で名前が選んだ靴は、さほど踵の高くない靴だった。それに僅かばかり安心しながら──飽くまでも僅かばかり、である──目的地に向かう。
外に出ても名前が手袋をつける様子はない。であれば買ったということもないだろう。冷気にさらされてすぐに赤くなりそうな指先を思い、その手を掴む。クリスマスにイルミネーションを見に行くのだ、うざいくらいにモブ共でごった返すだろうからはぐれないようにするという意図もあるし、──それ以外の意図は皆まで言うまい。
少しも驚かずに小さく笑いながら手をゆるく握り返してくる名前の、余裕綽々な顔を崩してやりたいとは思うが。……まあ、それは追々だ。今は良い。
そういえばプレゼントを渡すタイミングはどうしたら良いだろう。今まではこうしてわざわざクリスマスに出かけるようなことはなかった──野郎2人でクリスマスに出かけるという発想がそもそもなかった──し、家に行って用意したプレゼントを渡すだけだった。こうして出かける場合のプレゼント交換は、果たしてどのタイミングで行うのが正解なのか。……まあ最終的に渡せれば良いのだし、そこまで悩むこともないのだろうが。

「雪でも降れば良かったのにな」
「ただでさえクソ寒ィってのにこれ以上寒くなられてたまっか」
「ロマンがないなぁ。いいじゃんホワイトクリスマス」
「雪が降ろうが何だろうがクリスマスはクリスマスだろが」
「そうだけどさぁ……?」

指に毛先をくるくると巻きつけて、拗ねるポーズをとってみせる。実際問題外に出かけるのであれば雪など降っていないほうが良いだろうに、こういうところはよくわからない。

「……ていうかさー」
「あん?」
「何か言うことないですか?」
「……。髪巻いてんな」
「昨日コテ買ってもらいました。勝己は何かもらった?」
「登山靴」
「だと思ったー」
「……つかそれで良いんか」
「目は口ほどに物を言う、ってね。ていうかそもそも明確に言ってほしいわけでもないし」

上機嫌そうだ。鼻歌でも歌い出しそうなほど。手は心なしか大きく振られているし、先ほどよりも距離が近付いた。時折肩が触れるほどの位置にいるから歩きにくくて仕方ないというのに、不愉快ではないのが不思議なところだ。
……そんなにわかりやすく語っていただろうか。付き合いの長さゆえの察しの良さも確かにあるかもしれないが、偏に名前の観察眼が有能なのだろうと思わないでもない。ただまあ、「どうせ言えないだろう」と思われていそうなのは癪だ。事実そうなのだから何とも言えないが。
確かに似合っているし、──客観的に見て、可愛いと言って良いとは思う。ただそれを、口に出すのはあまりにむず痒かった。

「……あ、勝己、ほら!イルミネーション、綺麗だねぇ」
「……おー」

まあ正直イルミネーションなんて発光ダイオードでそれらしく飾り立てているだけだろう、とか思わないでもないが……それで名前がこうもはしゃぐのであれば、来た価値はあるだろう。

「なんかいつもの道じゃないみたい」
「まあ、そうだな」
「電気代いくらかかるんだろうね」
「……。……妙なとこで現実感出してくんのやめろや」
「えー、だって気にならない?個人宅でやってるとこもあるけど、あれ数日間するだけでどれだけかかるんだろ、とか思わない?」
「そりゃまあ思うけどよ」
「ほらぁ」
「得意げにすんな」

イルミネーションが瞳に映っているせいか、普段にも増して目がキラキラしている気がしないでもない。別にそれが鼻に付くというわけではない、むしろ──いや。
何を勝手に考えて勝手に小っ恥ずかしくなっているのだろうか。馬鹿馬鹿しい。

「……さて、勝己さん」
「……何だいきなり」
「ちょうど良い具合に冷えて来たと思うのですが」
「あ?……ああまあ、そうだな。どっか入るか。そういや飯どうする」
「今日のごはんは7時から美味しくてリーズナブルなイタリアンレストランを予約してあります」
「は!?7時っててめェあと1時間以上あんだろバカか!つーか無駄に彼氏力高え行動してんじゃねえ!!」
「うるさいでーす。うん、ていうかちょっと落ち着いてよ、興奮してあったかくならないで。あと一回手ぇ離すね」

普段出かける時よりも大きめのバッグを持っていたから、プレゼントが入っているんだろうとは思っていたが。その通りだったらしい。「ちょっと目ぇ逸らしてて」と何とも杜撰なことを言ってくるのに渋々従って、名前の手元を見ないようにしてやっていれば、がさがさと包装紙とビニールの音がする。……自分で開けるのにわざわざ包装してもらったんだろうか。しばらくもしないうちに、肌触りのいい何かが首に巻かれる。

「メリークリスマス!今年はマフラーにしてみました」
「……サンキュ」
「うん。勝己が首元空いてる服着て来たら外で渡そうと思ってたんだ。マフラーして来てたりしたら普通に渡したけど」
「ああ、だから包装……」
「そうそう。どう?あったまった?」
「まあ」

マフラーを巻く際に頬をかすめた指先は、手を繋いでいないほうが随分冷えていた。こうしてマフラーをここで渡して来たということは、まだ外にいるつもりなのだろう。きっとこの冷気にさらされて更に冷えていくことは予想できる、──が。
渡すのは、後ででいいだろう。もしかしたら渡した時に「さっき渡してくれたらよかったのに」と言われるかもしれない。……いや、大丈夫か。望んだ言葉の1つも言えないようなところもわかっているなら、俺が“渡さなかった”理由くらいすぐにわかるだろう。
先ほどとは逆の手をとって、冷え切ったその指先から熱が移れば良い。体温まで掌握している、気分がいいものだ。今なら雪が降っても許せるだろう。口実にはそれこそちょうど良いから。

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