SHARE HAPPY?

・付き合ってる


どれがいいかなあ。
購買内、製菓コーナーにこれ見よがしに並ぶ長方形の箱を前にして、僕は小首を傾げていた。
一応世間一般における女子高生とさほど変わらないだろう思考回路を持つ僕だ、さして意外でも何でもないだろうから言うけれど。僕がいるのは、ポッキー並びにそれと似た特徴を持っている菓子類の並んだラックの前だ。

「……やっぱりオーソドックスが一番だよね」

と、ポッキーと言われれば誰もが思い浮かべるだろう標準タイプのものを手にとってレジに並ぶ。
隣で勝己がさっさとしろオーラを出してくるからもういいやってなったのもあるけど。女子高生としてはイベントごとには乗っておかないとって思うわけで?まあポッキーの日にかこつけてポッキー食べるだけなんだけど。でも期間限定ものでも良かったかもな、と若干後悔した。

「ケッ、まんまと乗せられやがって……」
「もう、いいじゃん別に。勝己だってバレンタインとかホワイトデーは結構乗るでしょ?チョコあげないと拗ねるしホワイトデーは律儀にお返しくれるし。ポッキーの日はダメなんて不公平だよ」
「は?拗ねてねえわ」
「え〜……まあいいけど」

一回買うの忘れてごめんねって言ったら舌打ちされてめちゃくちゃ不機嫌になられたの、僕忘れてないからね。甘いものはさして好きってわけでもないのにバレンタインのチョコだけは自ら欲しがるんだからわけがわからない。て言うかあれ中学の時だったから思えばあの時から勝己って……いや、皆まで言うな、ってやつかな。

「勝己にも後であげるね」
「いらねえ」
「え〜。美味しいのに」
「気分じゃねえ」

むしろ気分の時があるのかと疑問に思うけれど。
まあお弁当食べたらそんな気分になるかもしれないし、ならなかったとしても差し出せば食べるかな。切島くんとかも食べると思うし……2袋食べきれるかも。食べきれなかったら他の子達にも分けてあげよう。寮に入る前なら家に置いとけば適当にお母さんとかが食べてくれたけど……今そうもいかないしなあ。

「ちなみに今日のお弁当は生姜焼き弁当ね」
「へえ」
「午後の授業、結構動きそうだからボリューミーにしようと思ってさあ。勝己のは七味もかけたんだよ」
「おう」
「自信作!朝味見してみたけど美味しかったよ。でも今日のお夕飯にもちょっと出させてね、思いの外作り過ぎちゃった」
「わかった」

っていう会話をしてると切島くんとか上鳴くんとかが「亭主関白もいい加減にしろ爆豪!」とか言い出すけど。わかる。まあ素っ気ない反応だもんね、そう思っても仕方ないだろうけれど。
でも結構喜んでるんだよね、これでも。眉間に皺寄ってないし、目元柔らかいし。美味しかったらうまいって言うし。なんだ勝己って結構素直な奴だな?
切島くんたちはお昼は食堂で食べてるし、僕と勝己もそこで食べるけど。食堂でお弁当食べてるっていうのもなかなかに空気が読めてないなあ、なんて毎度思ってしまう。あと、出久を見かけるとカツ丼食べたくなる。今日カツ丼作ろうかな……いやでも生姜焼きの残りが……まあ勝己よく食べるし問題ないか。もしアレだったら生姜焼きは他の人にお裾分けしてもいいわけだし……。

「お、名字、ポッキー買ってきたんだな」
「うん、ポッキーの日だしね。後で分けるね」
「おう、サンキュー!」
「なあなあ、ポッキーっていやポッキーゲームだろ?後でやろうぜ」
「上鳴くんそんなにポッキーゲームしたいの?」
「そんなにではないけどやりたい」
「だって瀬呂くん!やってあげなよ!」
「パス」
「俺だってパスだわ!俺は女子としてえの!名字でも全然アリ!」
「あはは僕もパス」
「お前よく爆豪の前でそんなこと言えんな。勇者かよ」
「度胸がなくてヒーローなんかなれるか!」

上鳴くんのそういうところ、僕は嫌いじゃないけれど、ポッキーゲームはどう考えてもノーサンキューだ。ポッキーの両端をお互いに含むだけで結構距離近そうだし……。

「じゃあ名字は誰とポッキーゲームすんだよ!?あっ、爆豪以外で!」
「誰ともしないよ」
「強いて言えば!強いて言えばの話!」
「……強いて言うなら出久?」
「ア゛ァ゛!?」
「あ、勝己聞いてたの。ごはんに集中して聞いてないかと思ってた。生姜焼き美味しい?」
「くっそ美味えわ死ね!!そうじゃねえよ何でよりに寄ってデク選びやがったてめェ!!」

それでもちゃんと褒めてくれる勝己、控えめに言っても僕のこと好きすぎると思う。……で、出久を選んだ理由か。

「えー、だって幼馴染で気心知れてるし、幼稚園の頃ちゅーしたことあるし、それに出久ならテンパって最後まで食べ進めないと思ったから間違い生まれそうにないしさあ……?」
「……は?あ?今なん……何つった?」
「え?間違い生まれそうにない?」
「そこじゃねえわ!!もっと前だ!!!」
「……あ、ちゅーしたことあるってとこ?」

反応したのはそこだったらしい。……勝己は覚えてないんだ?こんなはっきり覚えてる僕がアレなのかな。でもこれに関してはお母さんがたまーに話すからっていうのも理由だと思うし、覚えてなくても無理ないか。

「お遊戯会で、眠り姫かな?それで僕、王子様役になったことあったでしょ?家で劇の練習したことあったよね」
「……覚えてねえ」
「勝己がお姫様役やりたくないって言うから出久に頼んで、本読み手伝ってもらって、流れでちゅーしたんだけど、……ていうか勝己が俺もするって言うから勝己もしたよね」
「は?」
「その時の写真とか残ってるよ?お母さんとか相当面白がってぱしゃぱしゃ撮ってたし……そう考えると僕のファーストキスは出久か。でも幼稚園児ならノーカンかな」

出久との写真も、勝己との写真もある。アルバムに丁寧に収められているわけだ。さすが物心ついた頃からの幼馴染というだけあって、うちにある僕のアルバムには、1ページごとに必ずと言っていいほど勝己か出久が写り込んでいる。まあ、年齢が上がるにつれて出久が写る機会は減っていったんだけれど。

「爆豪……っ」
「泣くなよ爆豪……」
「何でこの幼馴染どもは的確に爆豪の地雷を踏み抜いてくんだよ……」
「うるせえ憐れむなクソ共!!」
「いやでもセカンドキスは爆豪なんだろ!?あっそれに幼稚園時代ノーカンにすんならファーストキスは爆豪じゃねえの!?」
「ううん?」
「ちげえの……!?」
「だって僕、中学の時彼女いたし」
「てめェなんか嫌いだァ!!!」
「ごめんね」
「憐れむなよぉ!!」

ていうか何の話してたんだっけ?……ああそうそう、ポッキーゲームやるなら誰、っていう話だったんだ。
……うーん、勝己拗ねちゃった。こうなると結構面倒なんだよね、口きいてくんないし。

「勝己〜、ポッキーゲームする?」

無視か。勝己のご機嫌取りをするのは別に嫌いではないんだけれど、あまり長引かせると授業にも差し支えそうだ。
……仕方ないか。
ポッキーを咥えたまま、勝己の肩を叩く。顔をしかめながらこちらを向いた勝己のほうには、チョコ側が正面にきていることだろう。チョコが多いほうを向けるだけで気分が良くなるとも思っていないけど。咥えているせいできちんとした発音にはならなかったけれど、「する?」と誘ってみれば、勝己は舌打ちをしたあとでポッキーの先に噛み付いてきた。
うわ、僕が食べ進める暇もなくめっちゃ食べてくるぞこの男。あっという間に顔が目の前だ。鼻先がぶつかる前に顔を少し傾けた勝己が、最後のひとくちを食べる。僕の唇ごと、だ。触れた時間は長くない。唇にプレッツェルのかすが残っていたのか、おまけとばかりに僕の唇を舐めた。

「ていうか唇噛まないでよ」
「うっせ」
「しかも人のごった返すお昼時の食堂で」
「てめェが誘ったんだろ」
「おっしゃる通りで。いやまさかここまでするとは思わなかったけど」
「どうだかな」

いや本当に想定外だからね?
……うーん、これでわりと機嫌が良くなってるみたいだけど、ちょっと癪だな。
やり返しても構わないよね。

「あのね勝己」
「あ?」
「僕のファーストキスは出久だし、それをノーカンとしても勝己ではないんだけどさ」
「やめろ」
「でも僕がキスしたいと思うのは勝己だけだよ」
「………………やめろ」

完全勝利Sとはいかないかな。せいぜいA勝利ってとこ?でも仕返しはできたからいいや。

「……よそでやれやクソリア充!!」

ごめんね上鳴くん。

「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -