HAPPY HALLOWEEN!

・付き合ってる


「かーつき、Trick or Treat!」
「……ンだその格好」

ノリが悪い。
まあ仕方がないのかもしれない。今の僕の服装を思えば。
何を隠そう、今日はハロウィン。而してヒーロー科である僕達が外に出向いてハロウィンパーティに参加するようなことはできないわけで──だってヒーローの仕事を増やすようなものだ。夥しい人数がハロウィンにかこつけて仮装をしてハロウィンナイトと洒落込むのだ、それの整備にヒーローも派遣されている。将来の自分達の仕事を思いげんなりするが、つまりわざわざヒーローの仕事を増やすようなことはない。まあ僕達が減ったくらいじゃ焼け石に水だろうけれど……。
だけど女の子って、イベント事は好きな子が多い。少しくらいイベントの気分味わいたいよね、ということで八百万さんが仮装衣装を出してくれて、気分だけでも浸ってみたというわけだ。僕の今の服装は修道服。ただし、そんなにしっかりしているものではなく、ウィンプルとワンピースの色がかろうじて修道服の体裁を保っているだけで、修道服とは名ばかりの露出の高さだ。胸元は出ているし、大胆なスリットは太ももまで見せている。……言っておくが、僕の趣味ではない。くじ引きをしたらこういう服装になってしまったというだけだ。

「……それで、お菓子は?」
「あ?ねえよンなもん。あると思ったか」
「思ってない。ないならいたずらだよね、じゃあ勝己これ着て」
「断る」
「お菓子持ってないんでしょ!似合うの作ってもらったからさあ〜……」
「断る」
「……どうしてもだめ?」
「やめろその目」
「…………」
「……っだー!クソ!着りゃいいんだろ!クソあざとい顔しやがって!!」
「いいの?ありがとー!」

布類を勝己に差し出すと、引っ手繰るように受け取ってずんずんと部屋に入って行ってしまった。チョロいもんである。勝己が着替えを終えるまでしばし待っていると、切島くんが部屋から出て来た。そういえば隣だったんだっけ。

「……うおっ、名字!?どーしたそのカッコ!」
「ハロウィンだよー。あ、切島くんも、Trick or Treat!」
「あ、えっと、お菓子か?ちょっと待ってろ!」

切島くんは一旦部屋に引き返して行った。……何か用があるなら悪いことしちゃったかな?少しして、切島くんと一緒に上鳴くんや瀬呂くんも出て来た。あ、部屋にいたの。

「ヒョー名字!お前!すげえな!ありがとう!」
「ハロウィンかー。女子みんなやってんの?」
「あ、うん。気分だけでもってことで」
「名字、これお菓子な!食ってくれ!」

飴やら個包装されたスナック菓子なんかを渡された。あ、これ好きなやつだ。切島くんはいい人だなあ。

「何、爆豪いねーの?」
「ううん、いるよ。今いたずら中」
「いたずら……………?」
「上鳴お前峰田化してねえか?」
「お菓子持ってないっていうから、着替えてもらってるんだー。八百万さんに衣装作ってもらったから」
「へえ、何着てんだ?」
「えーっとね、」

僕が何の仮装か言おうとしたところで、勝己が部屋から出て来る。着替え終わったらしい。うん、思った通り似合ってる。

「あはは、勝己やっぱり似合う!」
「……吸血鬼か!」
「あ?………あ゛?」
「あ、切島くん達も仮装する?八百万さんに頼めば作ってもらえるんじゃないかな……わっ、え?何勝己、ちょっと引っ張んないで……わ、わ」

バタン!と音を立ててドアが閉じる。……部屋に連れ込まれてしまった。あんまり勝己の部屋に1人で入んないほうが良いって言われてるんだけどなあ、今は女の子だし。男女が部屋に2人きりってやっぱりちょっとよろしくないし?まあ良いんだけどさ……。

「どしたの?」
「……別に」
「まあいいけど……勝己やっぱり似合うね!ふふん、思った通り。狼男とかも考えたんだけどちょっとテンプレすぎるかなって思ってさ」
「何がテンプレなんだよ……」
「いや予定調和すぎない?いいじゃん似合うよ勝己」
「……まあいいわ。で、名前チャンよ」
「ん?」
「Trick yet Treat.」
「……いやいやいや。お菓子あげるからいたずらはやめて」
「菓子良いわ。溜飲下げさせろや」
「何する気ですか」

若干身の危険を感じる。……あまり良くないなあこれ。何か今更だけどこの格好で勝己の前に出て来るべきじゃなかったかも、と思った。あまりにも無防備すぎる。麗日さんが当たってた魔女とかのほうが露出も少なくて良かったかもしれない。

「名前」
「ヒェッ」

がっ、と肩を掴まれる。力はそこまで込められていないのだろうけれどビクともしなかった。

「いや、落ち着いて勝己、話せばわかる……」
「わからねえなァ。恨むんならンな格好で俺の前に現れた自分を恨むんだな」

頚動脈付近に噛み付かれ、本能的な命の危機を覚えた。ただもちろん食い破られるようなことはなく、噛み付くって言っても甘噛みくらいだ。ただそれでも八重歯が皮膚に食い込んで、少し痛い。いつまでやっているんだろうと思っていたら何か生温かいものが首筋をぬるりと撫でた。……これ舌だ。

「か、勝己、ちょっ、……ひ、」

何だこれ。何だこれ何だこれ何だこれ!今何されてんの僕!何で噛まれてるの何で舐められてるの、ちょっと意味わかんないんだけど!

「かつき、あの、」
「……これで勘弁したらァ」
「……いや、何……何で!?何で噛んだ!?」
「吸血鬼だから」
「そ、んなノリ良い奴だっけ……!?」
「ノってやったんだから感謝しろや」
「……もう勝己とハロウィンやんない……」

生温かい感触が何だか消えなくて、首筋を手でおさえた。……こんないたずら要らないんだけど……!ああもう、割に合わない!

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