私並びに彼の不運か幸運

いくら今日の食堂の数量限定メニューを食べられて気分がよかったからといって、自分の個性を全く配慮せず調子に乗ってスキップとかしちゃったことは反省しようと思う。ごめんなさい神様、これからはもっと足元に気を付けるし、人通りがなかったからと言って学内の廊下をスキップしたりとかしません。あまつさえ、曲がり角の先から誰かが出てくるかもしれないことを失念したりもしません。……だからもう少し、私の個性を自重させてはくれないでしょうか……。
現実逃避ついでに状況を簡単に説明すると、お察しの通り調子に乗ってスキップをしていた私は曲がり角を急ぎ気味に曲がってきた男子と衝突して、……まあどうしてこうなったんだかブラウスのボタンが第二、第三、第四あたりがブチッと取れたし、慌てて手をつこうとしたらしい男子の片手が滑ったんだか何だかわからないがブラを押し上げ私の生乳を思い切りわし掴んでいる事態。最近ラッキースケベが発生していなかったせいか、スケベレベルが割と高い。
人とぶつかって転んでラッキースケベ状態、という経験はまあ両手両足では足りないくらいだけど、そしてこの胸が誰かの手で揉まれたこともまた同様だけれど、さすがに生乳を揉まれることは両手で数えられる程度にしかない。……いや、まあ数える程度にはあるんだけれども。

「……いって、ぇ」
「あの」
「ん……?なんか、柔らけ……ぇぇえええああああああ!?うわああ!?ごめん!!!」
「あ、うん……」

彼は慌てた様子で手を離して、勢いよく私と距離をとった。髪を立たせているせいで耳まで真っ赤なのが見て分かる。髪の毛も赤いから本当にめちゃくちゃ真っ赤だ。そして何かを確かめるように私の胸をわし掴んでいた手と私の顔と私の胸に視線を彷徨かせている。
随分初心なひとなんだな、と思う私がどうかしちゃっているんだろうか。このくらいの反応が普通なのか?いや、別にここまでの反応を示す人が今までいなかったわけでもないけれど、最近は気まずそうな顔をする人が多かったからなんとなく新鮮な気持ちだ。いや、新鮮みとか別にいらないけど。永遠に味わいたくないくらいだけれど。……そんなことより、どうしようかなこのブラウス。なんでこういう日に限って私はブレザーもベストも着てこなかったんだろうか……慢心だ……体操着、誰かから借りられるかな……。

「あ、っと、いや、わざとじゃねえんだ!本ッ当悪かった!!」
「いや、そんなに気にしなくていいよ。事故だし……私も前見てなかったから」

わざとではない、それを疑う要素などどこにもない。というかこれはおそらく、個性のことを忘れて調子に乗ってスキップとかして前を見ていなかった私の過失だろうから。……いや、彼も曲がり角を前確認していなかったりもするんだろうから、全てが私のせいというわけでもないとは思うけれど……ただ、それを責めることもあるまい。
そんなことを責める前に私はこのブラウスでどうやって教室まで戻るかを考えなければいけないのだ。こんな個性だが人並みの羞恥心は持ち合わせているし、さすがに二つも三つもボタンが外れたブラウスは手でたぐり寄せるのも無理がある。どうしたって素肌が見えるだろう。……暑いからといってインナーを着てこなかったのが悪いか……今度からはどれだけ暑くてもインナーを着よう。

「あ、も、もしかしてボタン」
「え?あ。大丈夫、よくあるから」
「よくあんの!?いやよくあったとしても俺のせいだしよ、えっと……あ、ちょっと待って……いや、ちょっと来てくれ!」
「え?待っ……」
「ごめんな、俺A組だから教室すぐそこだし体操着貸すから!あ、大丈夫、念のため持ってきてるだけでまだ着てねぇし汗臭くはねぇと思う!」
「あ、え、ええー……?」

未だかつてこんなに厚遇を受けたことがあるだろうか。先ほど言ったとおり私のブラウスのボタンはそれはもうよく取れる。どれだけ補強したとしても、それを嘲笑うかの如くあっさりと呆気なくブチリと取れる。そして私の胸部から腹部にかけてを露出させるのだ。
困るには困るが、もう今更すぎてブラウスのボタンは取れるものだと思って生活している節がある。いや、今日は本当に暑かったからインナーを着てこなかったんだ……それがいけなかったのはわかった……。
それはそうと、彼は私の手を引いてA組の教室まで来ると教室の前で「ちょっと待っててくれ!」と言って中に入っていった。そして1、2分くらいして体操服を片手に戻ってきた。

「マジでごめんな」
「ううん、こっちこそわざわざ……気を使ってもらっちゃってごめんね」
「いや!むしろこれくらいしか……つーかシャツ弁償したほうが……!?」
「だ、大丈夫!そんな、ほんと気にしなくて大丈夫だから!替えいっぱいあるし……えっと……ありがたく、体操着借りるね」

着るにあたってどうしても手は離さなければいけなくなるけれどもまあすぐだし、と思ってささっと体操着を着る。ふん、よく服が濡れたりボタンが取れたりするおかげで体操着の早着替えはお手の物である。……いやまあ早着替えがお手の物だったとしても見えるものは見えてしまうけれど……。
彼の体操着は当然ながら私のものよりサイズが大きくて袖が余るけれど、胸周りはさほどサイズが変わらないことに気付いてしょっぱい気持ちになった。これがもう少しサイズダウンしてくれれば着られる服のバリエーションも増えるだろうに……。太って見られることもなくなるだろうに……。

「……、」
「本当にありがとう、体操着、明日返すね」
「……お、おう……!あっ、俺!俺、切島!切島鋭児郎っつーんだ!」
「切島……くん?えっと、私名字名前です」
「名字、だな。よろしくな!」
「うん、よろしく……?」

……一体何をよろしくすればいいのかはわからないけれど、まあ切島くんはいい人そうだから良いか。いや稀に見るいい人だ。世の中の人がみんなこうだったら良いのにな……。


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