緑谷くんのことが好きな女の子のことが好きな爆豪くん

これは自慢だが、俺は基本的に何でもできる。
顔良し、頭良し、運動神経良し、個性良し。手先も器用で、やってできないことなど何一つとしてありはしない。そしてヒーロー向きの派手な個性は、周囲の没個性共と一線を画しているものと自負している。神なんてものを信じる趣味はないが、もしもそのようなものが本当にいたとしたなら俺はその神から二物も三物も与えられているような、生まれながらの勝ち組だ。
ナンバーワンヒーローを謳われるあのオールマイトをも超えるヒーローになり、高額納税者ランキングの上位に名を刻むという素晴らしい野望を持っている。そして現在、その野望は十中八九人生設計通りに進んでいる。
しかしそんな俺の完璧な人生設計を狂わせるクソのような存在が、忌々しいことに二人いる。
一人目は緑谷出久、通称デク。勉強くらいしか取り柄のないようなクソナードで、没個性にさえなることのできないモブの中のモブ、無個性の木偶の坊だ。一応幼馴染という間柄である。しかしこのクソナードは腹立たしいことに、俺に手を差し伸べるというクソ生意気な真似をしてきやがる。挙げ句の果てに「君が助けを求める顔をしていた」だとか何とか抜かして、俺を助けようとしやがった。できることなど何一つとしてないような無個性の分際で、生意気に。本来ならは道端に転がる、何の障害にもなり得ない石コロでしかないデクを、俺は“邪魔”だと思っている。その事実が、既に不愉快だ。
そしてもう一人というのが、名字名前。これまた俺の幼馴染で、デクとは違い女で個性もあるがやはり大したことはない、没個性のモブ。昔からデクに対して恋愛感情を持っており、俺の後ろをついてくるデクの後ろをついて回っていた。翻って、この女もデク同様に俺の後ろをついて回っていた、ということになる。この没個性のモブ女がどうして俺の人生設計を狂わせるのかといえば、不快極まりないことに答えは単純明快、十五文字以内で簡潔に説明が可能だ。俺がこの女のことを好きだから。句読点含め十五文字ジャスト。全くもって理解できないが、現状俺はこの、デクのことを好きだという女を好きだということになる。
認めたくはないが情けないことに、俺の人生設計には名前が必要不可欠というところまできている。そして名前がデクを好きでいる限り、この人生設計は狂い続けるのだ。
確かに名前は、顔は悪くない。この完璧主義の俺が不覚にも好きになれるくらいなのだ、はっきりした二重に形の良い大きな目、バランス良く配置された顔のパーツ。気の抜けた──よく言えば柔和な面立ちは、見ていると和まないこともない。
にも関わらず。この俺が不覚にも惚れてしまった女は、何もかもが俺に数倍劣るはずの無個性のデクに惚れていやがるのだ。なんて屈辱だ。許し難い。しかしだからといって、怒りに任せて名前に八つ当たりするようなことだけはどうしてかできなかった。これが惚れた弱みかクソッタレ。その皺寄せは大概デクのほうに行くわけだが、最近は──あのヘドロの一件もあって──近付きたくもないので何もしていない。我ながら女々しい思考に不快指数は日に日に上がる。
なんせこの名前という女は、相当鈍感だった。そんなに鈍感でよく生きてこられたなと思うほどの能天気な顔をして、この俺に恋愛相談などというクソのようなことをしてくるのだ。デクを蛇蝎の如く嫌っている、且つ名前を不本意ながらどうしようもなく好いているこの俺に、だ!初めてそれをされた時、この時ばかりは殺してやろうかと思った。結局掌上で小爆破さえ起こせなかったが。
あの時は確か、「実はねかっちゃん、私出久くんが好きなんだ」とか何とか言っていたか。何が実は、だ。そんなこと俺はとっくに知っているのだ。俺が何年名前のことを見ていたと思っている。俺に言うな、本人に言え。いや、本人に言うのはやめろ。デクの野郎が万が一名前と付き合い出したりしたら俺はいよいよ、自分で自分を抑えられる自信がない。
しかしまあ、頭のネジが圧倒的に足りないこの幼馴染のクソアマは、「こんなこと言えるのかっちゃんしかいないんだ」と頬を染め照れながら笑っていた。俺は情けないことに、その顔が可愛かったので許してしまったわけだ。自分を想ってのものでないと、わかってはいても。


ここまで!
三角関係というものがそれとなく苦手なんですが、一方通行なものなら……と。みんな幸せなのがいいです。

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