だってまだ発展途上

ヴィランンン!?バカだろ!?」
「ヒーローの学校に入り込んでくるなんてアホすぎるぞ!?」
「先生、侵入者用センサーは!?」
「もちろんありますが……!」
「現れたのはここだけか学校全体か……何にせよセンサーが反応しねぇなら、向こうにそういうことが出来る個性ヤツがいるってことだな」

……一旦、冷静になろう。深呼吸をひとつして、冷静に敵の動きを見極める。敵の数はかなり多そうだが、こちらにはプロヒーローである相澤先生に、13号先生だっている。万が一生徒こちらが戦うことになったとしても──おそらく、は。対処できるはず。できることなら戦闘は避けたいけれど。当然だ、訓練でさえ両手で数える程度の戦闘しかしていないのに、いきなり敵と真っ向勝負なんて難易度が高い。

「校舎と離れた隔離空間。そこに少人数クラスが入る時間割……。バカだがアホじゃねぇ。これは何らかの目的があって用意周到に画策された奇襲だ」

轟くんが冷静に解析している。……しかし目的は何だと言うのだろう。この雄英に襲撃してくるなんて大それたことをしてくるのだ、ただの愉快犯などでは片付けられないと思う。それに、ただの愉快犯が雄英の防犯設備を掻い潜って侵入して来られるとも思えない。

「13号避難開始!学校に電話試せ!センサーの対策も頭にある敵だ、電波系の個性やつが妨害している可能性もある。上鳴、おまえも個性で連絡試せ」
「っス!」
「先生は!?1人で戦うんですか!?あの数じゃいくら個性を消すって言っても!」

出久が焦ったように……心配そうにとも言うか、相澤先生に声をかける。でもその意見ももっともだ。数を見る限り数十人はいるし、それを1人で捌くなんて、いくらプロヒーローとはいえ骨が折れるだろう。

「イレイザーヘッドの戦闘スタイルは敵の個性を消してからの捕縛だ、正面戦闘は……」
「一芸だけじゃヒーローは務まらん。13号!任せたぞ」

相澤先生は1人で飛び出して行ってしまった。敵が馬鹿にしたように個性を発動させようとしているが、個性を消されたのだろう。発動させられないことに困惑しているうちに、相澤先生が熟練した技で次々敵を仕留めている。
いつも首にかけているあのゴーグルで視線の先をわからないようにし、誰の個性が消されているか判断しにくいようにされている。そしてできた隙で、あの捕縛武器を利用して敵を倒していく──相澤先生って体術もできるのか。普段の不精な様子からは想像もつかない。

「すごい……多対一こそ先生の得意分野だったんだ」
「分析している場合じゃない!早く避難を!!」

出口に向かう僕達の前に現れたのは、先ほども見たあの黒い靄のようなもの。そこから声がしたということはおそらく、これそのものが人なのだろう。この個性社会だ、人間らしい姿じゃなくてもそう驚くことはないけれど……禍々しいと思ってしまうのは、果てもない敵意をこちらに向けてくるからだろうか。

「初めまして、我々は敵連合。僭越ながら……この度ヒーローの巣窟、雄英高校に入らせて頂いたのは。平和の象徴オールマイトに、息絶えて頂きたいと思ってのことでして」

……それでか。オールマイトが雄英の教師に就任したというのは連日ニュースになっていた。教師になったということは、今までは事務所があったとしてもヒーローの活動で各地を転々としていたオールマイトが、長時間ひとところに留まるということだ。敵からしてみれば、これほど狙いやすいこともないだろう。まあだからといって、この雄英に襲撃してくるなんてどう考えても異常だとは思うけれど。……それだけ自信があるとか?

「まあ……それとは関係なく、私の役目はこれ」

こちらに向かってくる靄に思わず警戒したその時、勝己と切島くんがその靄に向かっていった。2人が個性を発動させることによって靄は一旦霧散する。

「その前に俺たちにやられることは、考えてなかったか!?」
「危ない危ない……。そう、生徒とはいえど優秀な金の卵」

ぶわっ、と黒い靄が広がる。13号先生が勝己達にどきなさいと声をかけるも既に遅く、僕達はその靄に飲まれてしまった──ただ、僕は咄嗟に障子くんに庇われたので移動させられることはなかったけれど。敵はこの靄の中から出て来た。この靄がワープゲートの役割を果たしているのだろう、ということは。──今、ここにいないみんなは。

「皆は!?いるか!?確認できるか!?」
「散り散りにはなっているがこの施設内にいる」

障子くんの索敵能力には目を見張るものがある。……まあ勝己がどうこうなるとも思えないけれど心配なものは心配だ。どうしてこう敵の前に飛び出していくかな、こっちの気も知らないであいつホント後でぶん殴ってやる。……まあ今は、とりあえずここを凌がないと。

「物理攻撃無効でワープって……!最悪の個性だぜおい!!」

……いや、物理攻撃無効かは、どうだろう。さっきの発言からして……ああもう、勝己がいれば確認できただろうし、そもそも勝己も気付いているだろうから対処できたかもしれないのに肝心な時にいないなんて。……いや、そうじゃない、ここにいない勝己をアテにするんじゃなくて。自分で考えて、どうにか……しないと。僕だって、ヒーロー科の生徒なんだから。

「……委員長!」
「は!」
「君に託します。学校まで駆けてこの事を伝えてください」

警報も鳴らなくて、電話も圏外になっている。警報器は赤外線式で、相澤先生が下で個性を消し回っているにも拘らず無作動なのは、おそらくそれを妨害可能な個性を持つ敵がいて、そしてその敵を即座に隠したから。ワープ個性を持つ敵がいるのであれば、それは容易なことだろう。
とすると、それを見つけ出すよりもエンジンの個性を持つ飯田くんが駆けたほうが早い、と13号先生は言う。

「しかしクラスを置いていくなど委員長の風上にも……」
「行けって非常口!外に出れば警報がある!だからこいつらはこん中だけで事を起こしてんだろう!?」
「外にさえ出られりゃ追っちゃこれねえよ!おまえの脚で靄を振り切れ!」
「救う為に、個性を使ってください!」
「食堂の時みたく……サポートなら私超できるから!する!から!!お願いね委員長!!」

確かに、今ここにいるメンツの中でその役が適任なのは機動力に優れた飯田くんだと思う。というか、飯田くんにしかできないことだ。残念ながらこういう時、僕にできることと言えばそう多くはない。そもそも戦闘向きじゃないのに加え、物理攻撃が限りなく無効に近い相手に対しては圧倒的に不利だし、ワープの個性なら捕らえたってすぐ逃げられてしまう。……こういう時に勝己だったらって、考えてしまうのは悪い癖だろうか。

「手段がないとはいえ、敵前で策を語る阿保がいますか」
「バレても問題ないから、語ったんでしょうが!」
「っ先生、」

ハッと気付いた時には、13号先生の目の前と背後にワープゲートがあった。先生の発動させた個性がワープゲートを通して先生自身を攻撃してしまっている。先生の分厚そうなコスチュームの中身がどうなっているかなんてわからないけれど、“どんなものでも吸い込んでチリにしてしまう個性”をモロに食らって、怪我一つしないなんてありえない。授業前に13号先生自身から聞いた、「簡単に人を殺せる個性」という言葉が頭をチラつく。

「飯田ァ走れって!!」

飯田くんが砂藤くんに呼びかけられ、弾かれたように走り出す。出入り口までの距離はそう遠くはない。ワープ個性の敵が飯田くんをどこかに飛ばそうとするのを障子くんや麗日さん、瀬呂くんが阻止する。出入り口は自動ドアになっているのでひとが近づくのを感知すれば徐々に開いていくけれど、今はその時間さえ惜しいとばかりに僅かに開いた扉をこじ開け、飯田くんは飛び出していった。
切迫した空気で詰まっていた息を、はあ、と吐き出す。まだ安心はできないけれど──敵はまだここにいるし。飯田くんが助けを呼びに行って、それからここに到着するまでにどれだけの時間がかかるかわからないし、応援を呼ばれるとわかった敵がどういう行動を起こすかもわからない。13号先生は重傷だ。だからつまり、応援が来るまでに敵が攻撃してきた場合は……今度こそ、僕達が自力で対処する必要がある。
13号先生の様子を見ながらワープ個性のヴィランの出方を伺っていると、敵は僕達に何をしてくることもなく姿を消した。どこに行ったのかと視線を彷徨わせると、下の広場のところにその姿があるのがわかった。手──の模型、だろうか──をいくつもくっつけた異様な風体の男と何か話しているように見える。どちらも口元がよくわからないけれどたぶん、そうだろう。その傍らには身体中が真っ黒で、脳がほとんど丸出しのグロテスクな容姿をした大男がいる。
それを確認して、僕は血の気が引いた。だってその大男の下には相澤先生がいるのだ。服が黒いし、離れた場所にいるからはっきり見えるわけでもない。でも確かにあれは、相澤先生だろう。
緊張と恐怖でドクドク鳴る心臓がうるさい。
離れているから何が行われているのかよくわからなくてもどかしいのに、そちらに向かおうと恐怖心を振りほどくこともできない。爪が掌に食い込むくらい強く掌を握り締めて、下を見ていると。
バァン、とけたたましく音が響いて、反射的に音のしたほうを向いて──ようやく、僕は心底安堵して、そして……

「もう大丈夫──私が来た」

トップヒーロー、オールマイトの姿。曲がりなりにもヒーロー科にいるヒーロー志望のくせに、“助けてくれる誰か”の登場に心底安堵してしまったことを、少し、情けなく思った。

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