どうしたって正義感

週が明ける頃にはもう制服はできていて、その他コスチュームなんかも届いている。今までのヒーロー基礎学には体操服で出ていたのだけれど、今日からようやくコスチュームを着て授業に出られるというのもあって、何だかそわそわと浮ついた気持ちになってしまう。だってやっぱりコスチュームってヒーロー科ならではのものだし、それに新しい服に袖を通す時って何だかわくわくする。……って、自分でも自覚してるから、気を引き締めていかないと。怪我しても嫌だし。

「今日のヒーロー基礎学だが……俺とオールマイト、そしてもう1人の3人体制で見ることになった」

相澤先生もいるのか。何だか厳しそうだ、これはわくわくしている暇なんてないかもしれないな。……ていうか、見ることになった……って、何でだろう?1人じゃ見きれない授業なんだろうか。
何をするのかと瀬呂くんが挙手しながら質問すると、相澤先生はカードを掲げて「人命救助レスキュー訓練だ」と言った。……オールマイトもそうだけれど、新しい授業の時はカードを掲げないといけない決まりでもあるのだろうか。
にしても人命救助か。勝己は戦闘メインのヒーローだろうけれど、僕は個性からしても災害救助とかのほうが向いているし……ていうか、勝己と比べてしまうからかもしれないけれど、僕自身戦闘は不向きだからむしろこっちがメインだ。それにあのオールマイトだって、デビューは災害救助だし。ヒーローの本分といってもいいだろう。

「今回コスチュームの着用は各自の判断で構わない。中には活動を限定するコスチュームもあるだろうからな。訓練場は少し離れた場所にあるからバスに乗っていく。以上、準備開始」

もちろん、僕はコスチュームを着用する。コスチュームがどんなものかはまだ見てないけれど、一応要望は送っているし妙なものにはならないだろう。……思い付かなかったから某錬金術師をイメージして赤のロングパーカーに黒のインナーって送ったんだけれど。ロングパーカーなら担架とかにもできるし、便利だと思ったのだ。あとはメイスが欲しいとも送った。武器……にしては殺傷能力が高いから使うつもりはないんだけれど、手元に金属があったほうがいろいろ活用できて良いし。まあでも今日は持っていかなくていいかな、救助訓練だし。
余談だが、生地は耐熱性で頑丈なものをと頼んである。言わずもがな、勝己対策だ。……まあ布一枚で勝己の爆破が防げるとも思っていないんだけれども。
ちなみに僕は女子更衣室で着替えている。最初は僕が渋ったんだけれど(僕自身に問題がなくても元男が更衣室に入ることを嫌だと思う子もいるんじゃないかと思ったのだ)、今は女の子だし僕はいやらしくないし別に良いよ、とのことだった。これがただしイケメンに限るというやつなんだなと再認識してしまった。峰田くんの視線が痛かったことをここに記しておく。……まあそれはさておき、コスチュームだ。コスチューム、は……。
概ね要望通り、だ。赤のロングパーカーに黒のインナー。生地は頑丈そうなものだし、ブーツも結構ゴツめでしっかりした素材なのに軽いし歩きやすい。……ただ、インナーの布面積があまり多くない。お腹はガラ空きだし、太腿も露出している。おまけに身体にぴったりしたデザインで、……これは体型を崩せそうにない……。

「……てめェ何だそれ」
「あ、勝己。あはは、何か結構露出多かった……おかしいなあ、要望としては普通にお腹隠れてたしパンツもスラックスだったんだけど……」
「……女用に改変されたとかじゃねえのか」
「そうかも……?まあいいや、特に困ることもないし……」
「あ?」
「や、だって僕の個性これだから、服とか関係ないしね?」

それにパーカーを羽織ってさえいれば、露出もそこまで気にならない。確かに少し心許なくはあるけれど。というか耐熱性が強くとも、露出部分があったらあまり意味はないような気がする。そのうち変える機会があれば変えようかな。
それにしても。入試の時も思ったけれど、校内の施設にバスで移動するなんて、雄英の敷地面積って全体でどのくらいになるんだろうか。

「ていうか籠手無くしたら途端に寒そうなデザインだよね、勝己のコスチューム。腕丸出し」
「てめェに言われたかねえよ」
「言い返せないなあ……」

僕と勝己が話していると、「派手で強えっつったらやっぱ轟と爆豪だよな」と話す声が聞こえて来た。勝己はそちらを一瞥して鼻で笑い、窓の外に視線を移す。
個性の話だろうか。確かに勝己の個性は派手だし強いし、轟くんもそれは同じだ。

「爆豪ちゃんはキレてばっかだから人気出なさそ」
「んだとコラ出すわ!!」
「ホラ」
「この付き合いの浅さで既にクソを下水で煮込んだような性格と認識されるってすげえよ」
「てめぇのボキャブラリーは何だコラ殺すぞ!!つーか名前も笑ってんじゃねえよ!!」

クソを下水で煮込んだような性格って。喩えがあんまりすぎて吹き出してしまった。
まあ確かに、父兄からの人気は出ないというか、口の悪さからして苦情もきそうな気はする。ただガキ大将的な子達や、若い女の子からは人気が出そうだと思う。勝己自身もかつてはガキ大将だったし、そういう子どもは得てして不良的な大人に憧れるものだ。勝己は自分がナンバーワンでオンリーワンだったから、憧れの存在といえばオールマイトくらいしかいなかったけれども。まあでも一般には斜に構えるのがカッコイイ的な、そういう思考があると思う。そしてビジュアルがそもそも良いので、イケメン好きな女の子たちからすれば「俺様系のイケメンかっこいい」となるだろうし。……でも同じイケメンなら轟くんのほうが人気はありそうかな。影のあるクール系イケメンヒーロー……うん、人気出そうだ。
そうこう話しているうちに、救助訓練施設に到着したらしい。これまたすごい施設だ。まるで……

「すっげーーー!!!」
「USJかよ!!?」

そう、某テーマパークのような。

「水難事故、土砂災害、家事……etc. あらゆる事故や災害を想定し、僕が作った演習場です。その名も……ウソ災害事故ルーム!」

ああ、本当にUSJなんだ……。
で、この先生のことは僕も知っている。災害救助で目覚ましい活躍をしている紳士的なヒーロー。その名もスペースヒーロー「13号」。宇宙服的なコスチュームのデザインで、その顔は誰もわからない。……でも見たところ、オールマイトの姿は見えない。もうこの敷地内のどこかにいるのか、授業自体に遅れるのか、どちらかな。

「えー始める前にお小言を一つ二つ……三つ……四つ……」

増えるなあ……。

「みなさんご存知だとは思いますが、僕の個性はブラックホール。どんなものでも吸い込んでチリにしてしまいます」
「その個性で、どんな災害からも人を救い上げるんですよね」
「ええ。……しかし、簡単に人を殺せる力です。皆の中にもそういう個性がいるでしょう。超人社会は個性の使用を資格制にし、厳しく規制することで、一見成り立っているようには見えます。しかし一歩間違えれば容易に人を殺せる“いきすぎた個性”を個々が持っていることを忘れないでください。相澤さんの体力テストで自身の力が秘めている可能性を知り、オールマイトの対人戦闘でそれを人に向ける危うさを体験したかと思います。この授業では……心機一転!人命の為に個性をどう活用するかを学んでいきましょう。君たちの力は人を傷つけるためにあるのではない。救ける為にあるのだと心得て帰ってくださいな。……以上!ご静聴ありがとうございました」

…………13号先生カッコイイ。
僕の個性は、それだけいうのであれば殺傷能力は低い。けれども確かに、使い方如何によっては簡単に人を殺すことができるだろうと思う。ヒーローになるためにここにいるのだ、当然だが、誰かを傷付けるための個性にはしたくない。
身に染みる言葉に、口々にブラボーやらステキやらと褒め称える声と、あとは拍手が聞こえる。なんだか心穏やかになって、僕も控えめに拍手を送った。
──その時だった。

「一かたまりになって動くな!!」
「え?」
「13号!!生徒を守れ!!」

相澤先生の切羽詰まった声。何事かと状況が把握できないまま、相澤先生の視線の先──階段下の広場の噴水あたりを見ると、何か黒い靄の中からぞろぞろとたくさんの人が出てきているのがわかる。禍々しい雰囲気で、とてもじゃないが善良そうには見えない。

「何だアリャ!?また入試ん時みたいなもう始まってんぞパターン?」
「動くな!あれはヴィランだ!!」

──背筋が冷える。
途方もない悪意と殺気をびりびりと肌に感じながら、僕は知れず自分の掌を握り締めていた。

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