いつだって君の特別でありたい

たとえば道端に咲いていた綺麗な花を摘んで彼女にあげたとしたら、彼女はその表情を綻ばせて「ありがとう」と言って、まるでそんな何でもない花が世界で一番美しいもののように、大事そうに受け取るのだろう。たとえば宝石店に売っているような豪奢なアクセサリーをあげたとしたら、彼女は困ったような顔をして「こんな高そうなもの受け取れないよ」と言うのだろう。
例に挙げたが、俺としても彼女には豪奢なアクセサリーは似合わないと思う。彼女に似合うのはもっと華奢で可愛らしいデザインのものだと思う。生憎とアクセサリー類には詳しくはないので、これだというものは浮かばないけれど。
満天の星の下を歩きながら、どうしようかと頭をひねる。今俺が彼女にあげられるものはひどく限られているからだ。あげるつもりはないが宝石店は既に閉まっている時間だろうし、宝石店どころか普通のショッピングモールだって閉店してしまっているだろう。俺にあげられるものといえばさっきも言ったが道端に咲いている花くらいなものだ。コンビニに寄ればお菓子くらいは買えるけれども、それはあまりにも安上がりすぎる。後日別途で何か買おうとは思っているが、しかし今日中に何かあげたいと、思っているのも事実だった。
──名字の誕生日が今日だと知ったのはついさっきのことだ。本当に偶然で、知らないまま過ぎてもおかしくはなかっただろう。なにも、もう少しで1日が終わるこんな時に知らなくてもよかったはずだ。もう少し時間が前なら、せめてあと二、三時間前であれば。もう少し贈り物の幅は広がっただろうに。
しかし結局良い案は思い浮かばず、俺はコンビニに寄って名字が好きだと言っていたお菓子を数点購入して名字の家に向かっていた。……よくよく考えてみれば、こんな時間に行ったら迷惑極まりないはずだ。名字がいつも何時くらいに寝ているかはしらないが、おそらくはもう就寝時間も近いだろう。そんな中、少し話すくらいのクラスメイトが家を訪問する……迷惑がられる未来しか浮かばなかった。帰るべきだろうか、とは思う。而して自身の意思に反して、俺の足は名字の家に向かっていた。
しかしかろうじてスマホを取り出してトークアプリを開き、今起きてるか、とメッセージを送る。するとすぐに既読が付き、起きてるよ、と返事がきた。次になにを言おうか迷ったが、こんなところで長々考え込んでいても仕方ないだろうと今から少し家出られるかと送ると、既読こそついたがなかなか返事がない。いきなりこんなことを尋ねて、気味悪がられただろうか。あまりよくない想像をしながら、到着してしまった名字の家の前でスマホの画面を見やる。

「……轟くん?」

ガチャ、とドアが開く音と、耳慣れた名字の声。部屋着らしいラフな服装で出てきた名字は不思議そうな顔をしてはいたが、迷惑そうな様子は見受けられなかった。

「ど、どうしたのこんな時間に……」
「今日、誕生日だったのか」
「え?うん……」
「その……さっき知ったんだ。おめでとう」
「あ、ありがとう。……わざわざ言いに来てくれたの?」
「悪ぃ、こんな時間に来て。……その、どうしても何か……やりたくて。これ」

持っていたビニール袋を名字の前に突き出すと、ガサリとそれなりに大きな音が立った。
名字はそれを受け取って中身を見ると、みるみるうちに表情を明るくして「ありがとう!」と弾んだ声で言った。私これ好きなの、覚えててくれたの?と言う名字に、ひとまず安堵する。

「もっと早くに知ってたら、ちゃんとしたもんやれたけど……悪ぃ、こんなんで」
「ううん、そんなの全然いいよ!うれしいなあ。それに、轟くんが私の誕生日知ったの、ついさっきでよかったなって思っちゃった」
「え?」
「だって、今日最後に私をお祝いしてくれたの、轟くんだから。最初にお祝いしてくれたひとって結構特別だけど、最後にお祝いしてくれたひとも特別でしょ?」
「……そうか」

だから、さっきでよかった。そう笑う名字は可愛らしいと思う、けれど。

「……俺は、一番最初に祝いたかったんだ」
「え?」
「……来年は」
「来年……?」
「来年は、最初も最後も俺が祝うから」

かろうじてそれは彼女の目を見て言ったものの、照れ臭くなって目を逸らしたら、彼女がおかしそうにくすくす笑うのが聞こえた。

「……うん、来年、楽しみにしてるね」

そう言う声は柔らかくて、優しい。視線を戻してみると、暗がりで分かりにくいが、彼女の頬がほのかに赤くなっていたのを見た。

──来年も、その次も。年に一度だけ訪れるこの日に、どうか彼女の特別を、俺が独占できるようにと、らしくもなく思った。


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