プレゼントはサンタクロース

突然だが、私には3つ年上の兄がいる。兄妹仲はさほど悪くはないと思っているけれど、幼少期、兄のことをひどく憎らしく思ったことが一度だけある──いや、嘘だ。一度だけ、というわけではない。
そのひとつとして、小学4年生のクリスマスがある。その時既にサンタクロースの存在など半信半疑であったけれども、それでもクリスマスプレゼントは変わらず枕元に置かれているものと信じてやまなかった。しかし現実は残酷である。小学4年生のクリスマスの早朝、私のベッドの枕元には何もなかったのである。私はしばし愕然とした。なぜだろう、そう考えて思い至ったのは──兄が中学生になった、ということである。去年との相違点などそこにしかなかった。兄が中学生になると同時に、私へのクリスマスプレゼントも打ち切りになったというわけだ。何とも世知辛いようではあるけれど、平等を記すためにはそうするしかなかったのだろう。大人になった今であれば納得している。まあ、兄のほうが3年分多くクリスマスプレゼントをもらっているじゃないか、と思わないでもなかったけれど。片方にあげて片方にあげない、よりは、両方にあげない、を両親が選択するのは当然のことだったわけだ。
──ただ私は、自分の枕元にプレゼントが置かれなくなったことをひどく悲しく思ったし、罪のない兄のことを憎たらしく思ってしまったほどだ。
だから、従兄弟には同じ思いを味わわせたくなかった。そんな気持ちから、それは始まった。
私が大学生になった時、遠方に住む母の妹、光己叔母さんの家に下宿することになった。その家にはちょうどその年から中学生になる勝己くんという男の子がいた。さぞ邪険にされるだろうと思ったけれどそんなことはなく、私と彼は付かず離れずの距離を保っていた。冬が近づいてきてふと、私は彼のクリスマス事情が気になった。彼が中学生だったから、かつての自分の悲壮感を思い出したのだろう。光己叔母さんに訊いてみると、「あの子サンタとか信じてないし、もう枕元には置かないかな」とのことだった。勝己くんは中学生当時の私よりもずっと頭が良くて落ち着いた子だったから、きっとサンタクロースなんて小学3年生くらいには完全否定していたくらいだろう。──とはいえ、そうか、彼の元にはもうサンタクロースが来ないのだ、と少し寂しい気持ちになった。それでかつての自分を慰めようと思っていたのだろうと言われればその通りかもしれないけれど、私はそう、彼のサンタクロースになろうと思ったのである。
まあ勝己くんは親御さんからサンタクロースとは別途でクリスマスプレゼントをもらっているし、そもそもしがない大学生のバイト代から出ているから大したものは買えなかったけれど。……何を買ったんだっけ。確か衝撃に強い腕時計とか買った気がする。あ、確かこれ当時いた彼氏に贈るクリスマスプレゼントよりも高価なものだ。大したものを買っていた。中学生相手に彼氏に贈るものより高価なプレゼントを用意するなんて、私ってちょっとおかしい?……いや、それはさておき。
勝己くんは自分の枕元に置かれたプレゼントの箱を見て、ひどく不思議に思ったに違いない。実際に「おいババア、もうサンタはお払い箱じゃなかったんか」などと言っていた気がするし。なんて言い草するんだろう……と思った覚えがある。私でも勝さんでもないよ、と光己叔母さんが言えば勝己くんが私を見るのは当然だった。「勝己くんがいい子だからサンタさんからのプレゼントだよ」とクソみたいなコメントをしたら勝己くんは、何だこいつ……みたいな顔をしていた。そういえばあの顔、ちょっと傷付いたなあ。
翌年のクリスマスにも、私は彼の枕元にプレゼントを置いた。その年はお財布だったかな。また勝己くんは変な顔をしていた。ちなみにその時には既に彼氏とは別れており、他の出費はなかった。しかしクリぼっちという可哀想なことにはならなかった。何故ならば勝己くんが「クリスマスに出かける用事もねえ寂しいおまえのために一緒に映画でも見に行ってやる」と映画のチケットを2枚用意してくれていたからである。別れた彼氏よりよほど彼氏力が高くて私は少し泣いた。映画はその涙を吹き飛ばすような爽快アクションムービーであった。楽しかった。
その翌年も、私はまた勝己くんの枕元にプレゼントを置いた。勝己くんはもう慣れたもので、サンタに礼でも伝えとけ、と言われさえした。
その翌年から雄英高校が寮制になるアクシデントに見舞われたものの、何とか高校二年間、クリスマス前に冬季休暇に入ってくれたおかげで私は勝己くんの枕元にプレゼントを置くことができたのだった。ちなみに去年、私は四年制大学を卒業して社会人として一人暮らしを始めていたのだけれども、クリスマスにわざわざ爆豪家にお邪魔して枕元にプレゼントを置いたのである。もうここまできたら意地だ。とりあえず高校三年間は置いていこうと思った──それで今年、勝己くんは高校三年生になる。
今年のプレゼントは何にしよう、そう思っていた最中、勝己くんは私に声をかけてきた。

「なあ」
「なぁに勝己くん」
「もうプレゼント買ったんかよサンタは」
「んー?まだじゃないかな」
「リクエスト、できんのか?」
「リクエスト?初めてだねそういうの。うん、できるよ」

勝己くんには何か欲しいものがあったらしい。私が勝己くんは何が欲しいの?と訊くと、何やら斜め上の発言を、勝己くんはしたのである。

「サンタに伝えとけよ。今年はてめェが、プレゼントになれって」
「………は、い?」
「リクエスト、できんだろ。高校生になってもまだサンタからプレゼントがもらえるくれえに「いい子」の俺が、6年間もずっと欲しがってたプレゼントだ。俺のサンタクロースとやらは、当然それくれるよな」
「……勝己くんよりそれなりに年上の女で、いいんでしょうか」
「良いっつってる。……つーか、それ以外要らねえ」

……今日、自分へのご褒美に、エステ予約しといてよかった。心底そう思った。
高校生に恋をするなんて成人しといて情けない。そう、だけれど許してほしい。だってこんなにかっこいいのだから。それにしても、6年間。私は勝己くんが高校生になってから好きになってしまったので、勝己くんはその倍好きでいてくれたことになる。……6年間、ていうことは私が彼氏いた時期も私のこと好きだったってこと?めちゃくちゃ一途だ……まあ勝己くんがあまりに彼氏力高すぎて私にはそれ以降彼氏ができなかったんだけれども。──それも計算のうちだったら、怖いなあ。まあ、好きだけれど。


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