だいたい個性のせい ver.爆豪

爆豪勝己、現在見た目年齢5歳。いろいろあって省くがウッカリ受けてしまった個性の影響で見た目がショタになってしまった16歳である。ぶすっと下唇を突き出してとても不機嫌そうなしているが、今の容姿でそれをしていても可愛いだけだった。丸っこくもちもちした頬が膨れて何とも可愛らしいし、爆豪の彼女である名前はその頬を見ながらそわそわしていた。何を隠そう、名前は子供が大好きであった。爆豪と付き合っているだけあってショタコンとはまた違うのだけれど、まあとにかく子供が大好きであった。
ひとしきりそわそわした結果、我慢できなくなってしまいその頬を人差し指でつつく。

「……あ?んだてめェ、なにしやがる」
「ご、ごめんね……つい……」

と言いつつも頬をつつく手は止まらない。可愛い。あまりにも可愛いし触り心地が良い。爆豪がどんどん不機嫌になっていくのがわかったけれども止められなかった。そしてついに。

「〜〜っ可愛い!」

ぎゅむう、と抱き着いた。抱き着いてもちもちの頬に自分の頬をすり寄せた。

「爆豪くん可愛い……っ」
「おい!おいやめろや!放せクソブス!くっそはなれねえええ!!」
「えへ、えへへ」
「ヘンタイかてめェ!!」
「んんんん……っかわいいなあ〜……っ!」

名前は今、どこに出しても恥ずかしい立派な変質者であった。仮にここが寮の共有スペースでなかったなら──つまり理解ない他人の目のある場所であったのなら、確実に通報されていたことだろう。
普段の爆豪であればこんなことは許さなかっただろう。もとより名前は、自分から抱きついて来るようなスキンシップが過剰なタイプではない。爆豪が触れようとすれば真っ赤になって逃げ出そうとするような女子なのだ。しかしそれが今は、自ら爆豪を抱きしめて、変質者のように頬擦りをしている。別に嫌だというわけではない。嫌だというわけではないが、複雑を通り越して腹立たしい気持ちだった。それも当然だ、普段は慌てて逃げようとするくせに、子供になった自分には自ら過剰ともとれるスキンシップをとってみせるのだから。
おまけに思い切り抱き込まれているがために、揉める程度にはある胸が押し付けられてその感触を明確に伝えてくるのだ。中身は健全な男子高校生である爆豪としてはたまったものじゃない。

「やっ、めろ!!」
「うう……っだって可愛いんだもん、ちっちゃい子と関わる機会なんてないし、ああ〜中身が爆豪くんとは言えやっぱり可愛いよぅ……っ!」
「おいてめェそれどういうことだブス!!」
「うう〜……ちっちゃい子に言われることなら許しちゃうなぁ……?」

その言葉を受けて、いつもは許してねえのかと爆豪は若干ゾッとした。普段から爆豪は素直になりきれず、たびたび今のように暴言を吐いてしまうことがあったからだ。名前はそれについては特に言及もせず、気にしていない様子ではあったが。しかしそういう趣味もない名前にとっては、当然ながら言われて気持ちのいい言葉でもないだろう。
爆豪が遅まきながら反省してこれからは暴言をどうにか抑えようと決意している間、名前はその柔い頬に頬擦りしていた。

「……い、い加減にしろよてめェ!」
「爆豪くんをぎゅっとできる機会なんてそうそうないのに……」
「いつもできんだろうが!!」
「ええ〜、無理だよ……あと3時間くらいはこのままでいてほしいなあ……」

何が無理なんだ、と爆豪は更にイライラした。しかもあと3時間はこのまま抱き締めているつもりなのか、冗談じゃない。身体は幼児でも中身は思春期、彼女の胸が身体に押し付けられているこの状況を耐え切れる精神ではなかった。それゆえ逃れようともがくものの、どこにそんな力があるのか、はたまた今の爆豪の力が弱すぎるのか、ホールドしてくる腕は一向に外れない。

「ぐっ……くっそ……!」
「ふふ、かわいいなぁ……ふふふ……」
「おい……ガチのヘンタイか……!?」

曲がりなりにも恋人に向ける言葉ではない。しかし奥手で照れ屋で小動物のようだと思っていた彼女がこうも印象と外れた行為と発言をかましてくるのだ。混乱してもおかしくはない。

「爆豪くんとの子どもはこんな感じなのかなぁ」
「あ?」
「こんなにかわいいとものすごく甘やかしちゃいそうだなぁ……」

頬擦りできるほどの近距離で言われたのだ、当然爆豪の耳にもその言葉は届いている。
名前の性格からしてそこまで深く考えて発言したわけでもないだろうが、しかし爆豪はその言葉でおとなしくなってしまった。天然とは恐ろしいものである。
思春期の爆豪が連想するのは「結婚するまで思考が飛んでいる」という点ではない。子供ができる過程である。仕方がなかった。なぜなら思春期であるから。幼児の身体がそろそろ本気で煩わしくなってきた爆豪は、今、心底高校生の身体に戻りたいと思った。──瞬間。

BOM!

と、音がする。名前は一瞬爆豪が個性を発動させたのかと思ったが、しかし違った。

「……戻った」
「ひぇっ」

爆豪が高校生の姿に戻ったのである。なんということはない。この個性はかけられた当人が本気で、心の底から、強く「元に戻りたい」と思えばいつでも戻れるという個性であった。今の爆豪がそうであったというだけだ。
さて、ぎゅうっと力一杯幼児の爆豪を抱き締めていた名前は今、当然のごとく高校生の爆豪を抱き締め──いや、抱き付いている。そういう体勢になっている。気付いた名前が離れようと腕を離してももう遅い、形勢逆転とはこのことである。
もはや名前が暴れようが何しようが、ホールドしてくる腕は外れないのだった。

「ひぃ……!ば、爆豪くん、その、調子乗ってごめんなさい……許してください……」
「……おお」
「えっ許してくれるの」
「今思えばよ、」
「へ……?」
「逃げ足だけはクッソ早ぇてめェが自分から好んで捕まりに来たんだから、感謝すべきだわ」
「え、え、あ、わ……あ!?」
「いきなり子供ができるようなことしたらよォ……てめェ秒で死にそうだからな……じっっっくり、慣らしてやっから、感謝しろや……」

その顔は爆豪が敵の弱点を突き止め追い詰める時の顔と全く同じであった、と──その場にいながらも空気と化していたクラスメイトのKくん(硬化個性)は語る。


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