「お前のせいで、俺の夢は潰れたんだ!!」

 憎しみすら篭った声で叫ばれて、サトシは、その場に足が縫い付けられたように動けなくなった。





 ポケモンリーグ、シロガネ大会。
 その、選考会での出来事だった。

 選考会では、1人3回、1対1の勝負を全勝しなければならない。バトルの内容によっては一度くらい負けても勝ち進める場合もあるけれど、相手の青年はすでに、サトシとの勝負の前に負けていたようだった。
 このバトルに勝てれば予選進出の可能性もあっただろうが、負けたということは、その可能性は潰えてしまったということだ。
 そう、彼のポケモンリーグは、予選にすら出ることなく終わってしまった。

 それは、実力によるものだった。
 サトシは何もズルなどしていないし、サトシに限っては、ポケモンバトルでそんな事をするという考えすらないだろう。そんな事はタケシやカスミにとっては当たり前で、疑いようの無いことだった。
 だが、サトシをよく知る二人にはそうでも、相手のトレーナーにはそんな事はわからない。
 負けて頭に血が上った彼は、悔しさと怒りで顔を真っ赤にして叫んだ。

 自分がこんな子供に負けるわけがない。こいつが何か不正をしたのだ。と。

 もちろんサトシは言い返した。
 当たり前だ。サトシは本当に何もしていない。
 けれど相手はそんな事には構わない。何故なら彼はサトシの事など知らないからだ。
 だから、更に叫んだ。


「お前のせいで、俺の夢は潰れたんだ!!」


 今まで言い返していたサトシの声が、不自然なところでぴたりと止む。
 憎しみすら篭った声で叫ばれて、サトシは、その場に足が縫い付けられたように動けなくなった。
 だって、初めてだったのだ。そんな感情を真正面から向けられたのは。

「俺は今回のリーグを最後にするつもりで、全てを賭けてたんだ!それなのにお前のせいで俺の夢はもう終わっちまったんだぞ!」

 彼の言葉は、理不尽なものだ。
 サトシは何もしていない。正々堂々と勝負をして、勝利を勝ち取った。
 それを、二人もサトシのポケモンたちも、審判だってわかっている。

 けれどその言葉たちはサトシの心に突き刺さった。突き刺さって、深く抉ってしまった。
 今サトシの中ではぐるぐると、その言葉が反復している。
 サトシも、このリーグにたくさんのものを賭けているからだ。負ける悔しさがよくわかった。
 だから、ぶつけられた感情も言葉もベトベトンのヘドロのようにどろどろと、サトシの頭の、心の、体の中に満ちてしまった。

 タケシとカスミの声が遠くに聞こえる。
 サトシは悪くない。そんなの逆恨みだわ。二人はサトシを庇うように間に立って、相手に抗議した。
 二人が相当の剣幕だったせいか、それとも足元でピカチュウがばちばちと電気袋から放電していたせいか、相手の男は早口で言いたい放題サトシへ文句をぶつけ、立ち去っていった。
 次の試合で負けちまえ、と捨て台詞を残すことを忘れずに。

「サトシ、気にすることないわ」
「そうだぞ。あんなの、ただの負け惜しみなんだから」
「ピカピ、チャァー…」

 心配そうに顔を覗き込む二人と一匹に、真っ青なまま小さく、引きつったような笑みを浮かべるのがサトシにはやっとだった。



 自分が彼の夢をだめにしてしまったのだと、そればかりがサトシの思考を支配していた。



2009.3.16 収納

選考会で相手と会話したのが一回戦だけしか映ってないのでこんな妄想。

一人や二人くらいいて良いと思うんだ、こういう奴。
サトシにスピリチュアルアタックかませばいいよ。

/潰した夢
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