0と1の間に堕ちていく
0と1の間に堕ちていく


 ロボットに心がないと言うなら、感情なんて、自我なんて不要なプログラムを創出した人間の一体どこに心があるというのだろう。人間らしい機械なんて作らず、“ぬくもり”なんてプログラムもなく、中身のコードや基盤が丸見えの無機物であれたなら、この稼働音を心の臓の鼓動だと錯覚せずにすんだのに。
 感情なんて、自我なんてプログラムがなければ、今失われていくぬくもりを、止まりゆく腕の中の時間を、壊れていくプログラムを嘆かずにすんだのに。
 0と1で構成された精密なプログラムの中に混じる、このノイズの正体はいったいなんだというのだろう。いくら検索したってヒットしない、原因不明のこのノイズは。
 ――愛情?
 そう疑う自分の頭のネジを引っこ抜いてプログラムを差し替えてくれないか。次はもう、感情なんて要らないから。今ここで止まる、腕の中の“存在”が自分の心だったことに気付いたから。
 ――俺の心も、ここに、おいていくから。


***

文・葎


2009.12.15
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