05
「うし、できた。凪、よそったカレー配ってくれるか?」
『うん、分かった』
カレールーを掛けて、切ったリンゴを乗せる。
完成したアップルカレーを凪に配ってもらった。
『はい、どうぞ』
『あら、ありがと。……そういえば、アタシたち自己紹介がまだよね?
アタシはロゼリア。よろしくね、坊やたち』
『よろしく。僕はメッソンの凪』
『僕はワンパチの大和だよ! で、あの人が僕たちのご主人!』
「ユウヤだ。よろしくな、ロゼリア」
『凪ちゃんに大和ちゃん、それからユウヤちゃんね。しっかり覚えたわ。
アタシこんな口調だけど一応はオスだから、そこもよろしくね』
にこやかに笑いながらそう言うロゼリアに、俺の中で感じていた違和感? のようなものが無くなった気がした。
そっか、このロゼリアはいわゆる"オネェ"なんだな。
『なんで女の子みたいな話し方してるのー?』
『そうねぇ。スボミーだった頃は"ボク"って言ってたし、話し方も普通だったんだけど……。
ロゼリアに進化してから自然とこうなったのよね。まぁでも今のアタシも気に入ってるから、変えようと思ったことは無いけど』
『そうなんだ……。じゃあ女の子として接した方が良いのかな?』
『あらやだ、凪ちゃんったら紳士……。
でも気にしないでちょうだい。"女の子になりたい"って訳じゃないのよ。
アタシは自分に正直でいたいだけだから、普段通りに接してくれれば良いわ』
『分かった、じゃあそうするね』
「話は一段落したか? 冷めないうちに食べようぜ」
全員で"いただきます"をして、それぞれがカレーを食べ始める。
一応擦ったリンゴも入れてるから、甘口にはなってるはずだ。
本当は木の実とかも入れるってソニアから聞いたけど、あいにく今は木の実が1つも無いからリンゴで代用した。
『あら、美味しい。カレーなんて初めて食べたけど、意外といけるわね』
『野生で暮らしてると、食べ物は木の実ってことが多いもんね』
『そうねぇ。ここには色んなトレーナーが来るから、人間の食べ物には少し興味があるわ。
前に1度だけ女の子のトレーナーからケーキを貰って食べたことがあるんだけど、それがすごく美味しくて!
それ以来、スイーツと紅茶には目が無いのよねぇ』
『そうなんだぁ。僕も甘いもの大好きだよ!』
元々野生で暮らしていたからか、それとも人懐っこさが発揮されてるからなのか。
大和はロゼリアとすぐに打ち解けたみたいだ。凪も楽しそうに話を聞いてるし、意外と相性が良いのかもしれないな。
それに"このロゼリアが仲間になってくれれば良いのに"と思う自分もいる。それなら……俺が今やることは1つだ。
「なぁロゼリア、お前さえ良ければ俺たちと一緒に来ないか?」
『え?』
カレーを食べようとした手を止め、キョトンとした顔で俺を見るロゼリア。
まぁ、いきなりこんなこと言われても驚くよな。
「実は俺、まだトレーナーとしては新人というか……ぶっちゃけ一昨日なったばっかなんだよ。
ガラルに来たのも最近だし、ポケモンについて詳しいともいえない。
だからこのワイルドエリアで色んな人間とポケモンを見てきたお前の知識を、俺たちに貸してくれねぇかな?」
『……知識だけで良いの?』
『それは……どういうこと?』
『確かに知識は大事よ。でもいざという時に"戦う力"も必要でしょ?』
『じゃあ……!』
『えぇ、アタシもユウヤちゃんたちと一緒に行くわ。
話してみると楽しいし、色んな場所に行けそうだし。アタシとしても良いこと尽くしなの』
『やったー! また友達が増えるね!』
『うん、僕も嬉しい!』
ロゼリアの返事を聞いた俺は、ベルトから空のモンスターボールを手に取る。
そしてそれを、ロゼリアの前に差し出した。
「俺を選んでくれてありがとな、ロゼリア。
一緒に色んなもの見に行こうぜ!」
『えぇ!』
ロゼリアがボールのボタンをカチッと押す。
赤い光に包まれながらボールへと吸い込まれていき、ゆらゆらと小さく揺れてその中に収まった。
そして再びボールの外に出す。これでロゼリアは、正式に俺たちの仲間になったんだ。
新しい名前も、もう決めてある。
「よし、今日からお前の名前は瑞貴だ」
『みずき……?』
「"お前から笑顔が枯れないように"、"気高く、他者を思いやる心を持てるように"。……そんな意味を込めた。
それに"みずき"って読む名前は、男女問わず使いやすい響きらしいしな。
気に入らねぇんだったら別の考えっけど、どうだ?」
『やだもう、何それすごくステキじゃない! 貰った名前に恥じないようにしなきゃ!
それじゃあ改めてよろしくね、ユウヤちゃん。凪ちゃんと大和ちゃんも』
『うん、よろしくね瑞貴!』
『一緒に頑張ろうね!』
「よーし、じゃあ食べ終わったらエンジンシティに向かうぞ」
新しい仲間はワイルドエリアに凛と咲く、蒼紅のバラ。
ロゼリア改め、瑞貴は嬉しそうに頬を緩ませていた。
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