02




『それ美味しそー……!』

なんか、隣にいた。



(い、犬……?)

そう思いかけて思いとどまる。

ここはポケモンの世界だ。"犬ポケモン"ならまだしも、"犬"がいる訳がない……はずだ。

『いーなー……。美味しそうだなー……』

元の世界にいたコーギーに似ているソイツは、舌をペロンと出したままサンドイッチをジーッと見ている。

首元は黄色い襟巻(襟巻……?)みたいになってて、つぶらな瞳と短い手足は"愛くるしさ"って単語が毛皮着て歩いてるみたいだ。……女子がこういうの好きそう。

『君、お腹すいてるの?』

『そうなんだー。今日、朝ご飯食べられなくって……』

黄色いソイツの言葉を証明するかのように、ぐぅぅぅ〜……と盛大な腹の虫の音が聞こえてくる。

さすがに無視するのは気が引けて、手に持っていたサンドイッチを差し出した。

「お前、これ食うか?」

『いっ、良いの!?』

「俺はまだおにぎりがあるからな。足りなかったら店で何か買って食うから、気にすんなよ」

『……ぁ……ありがとう! 僕もうお腹ペコペコー!』

「あ゙っ、待った待った! せめて皿に入れさせろ!」

とりあえずカレー皿にサンドイッチを乗せて、地面に置く。すると"いただきまーす!"と言うや否や、一心不乱にがっつき始めた。

朝から何も食ってないみたいなこと言ってたし、よっぽど腹が減ってたんだな……。

清々しいほどの食いっぷりを見せるソイツの隣で、自分のおにぎりをかじった。

最後の一口を飲み込み、川の水を使ってナイフを洗う。戻る頃にはサンドイッチは綺麗に無くなっていた。

『美味しかったー! お腹いっぱい!』

「そりゃ良かった。凪も腹いっぱいになったか?」

『うん、美味しかったよ。……ところで君、もしかしてワンパチ?』

『そうだよ。なんで知ってるの?』

「ワン、パチ……?」

聞いたことのないポケモンの名前に、目が点になる。

"ワン"は分かるけど"パチ"って何だ……?

『前に公園で遊んだ時に見かけたことがあるんだ。
それで、一緒にいた女の子がそう呼んでたから』

『そうなんだぁ。君はここら辺の子なの?』

『あ、うぅん。そうじゃないけど……。
僕はメッソンの凪。で、こっちが僕のトレーナーのユウヤ』

『よろしくー!』

なんか、様子見てるとすげぇ懐っこいんだな。

でもポケモン図鑑が無いと名前もタイプも分かんねぇし、早く研究所に行かねぇと。

「凪と仲良くなったとこ悪ぃけど、俺らブラッシータウンに行かなきゃいけなくてさ。
だからお前とはここでお別……」

『僕もついてく! というか僕、君のポケモンになる!』

「へ?」

一瞬、ワンパチの言うことが理解できなかった。

聞き間違いじゃなければ、"俺のポケモンになる"とか言ったような気が……。

思わずワンパチを凝視すると、舌を出したままニコーッと笑っているのが見えた。

「え、なんっ……なんで俺?」

『すっごく優しいから!』

「そんだけで!?」

優しいって……俺サンドイッチ譲っただけだぞ?

たったそんだけで"この人についていく!"ってなるもんなのか? チョロすぎて心配になるレベルなんだが……。

『ダメ?』

「いや"ダメ"って訳じゃねぇけど……」

助けを求めるように凪を見る。するとその視線に気付いた凪は、"ユウヤが良いなら、僕はそれに従うよ"と一言。

そして俺とワンパチを見比べた後、ニコリと笑った。

『あとはユウヤがどうするかだけど、新しい友達が増えるのは嬉しいことだよ。
でもワンパチ、どうして僕たちの仲間になりたいって思ったの?』

『んー……理由は僕もよく分かんないけど、ビビビッ! って来たんだよね。
サンドイッチくれた時、"この人だ!"って思ったんだ』

直感なのかよ! と思わずツッコミそうになるのを必死で飲み込む。

でもまぁ"一期一会"って言葉もあるくらいだし、これも"縁"ってヤツなんだろうな。

「……分かったよ。じゃあお前、俺たちと来るか?」

『……! うん!
戦うのはちょっと苦手だけど、僕頑張るね!』

「よし、なら今日からお前は"大和"な」

『やま、と……?』

「おぅ。強そうな名前だろ?」

『やまと……やまと……! うん、ありがとう!』

新しく付けられた名前を噛み締めるように呟いたワンパチ。

その響きを気に入ったのか、愛嬌のある顔でそれはもうニッコリと笑いながら尻尾をブンブンと振った。

マスコットキャラクターにこういうのいそう。

「……あ、でも今モンスターボール無ぇんだった。
とりあえず昼ご飯も終わったし、ブラッシータウンに行ってそこで買うか。正式な仲間入りはそん時だな」

『うん! よろしくね、ご主人!』

(ご主人、か……)

今の俺はトレーナーで、凪と大和は俺の手持ちポケモン。

とはいえ俺としては主従関係じゃなくて、あくまで対等な関係でいたいって思ってる。

まぁでも……大和が俺をそう呼びたいなら、それを俺が否定するのは野暮ってもんだよな。

さすがに"ご主人様"とかは恥ずかしいから呼ばせねぇけど。


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