03
「……ぅ……うぅん……」
どれだけの間気を失っていたんだろうか。目を覚ました俺は、自然に周りを見回した。
あれだけ濃かった霧は薄まり、あの時に比べれば視界は良好だ。
隣で気を失ったままの凪の体をゆっくりと揺する。
「凪。おい凪、大丈夫か?」
『……うぅっ……。あれ……僕たち、どうしたんだっけ……』
「変なポケモンに襲……いや、襲われてはねぇのか。
とにかく、さっきの2体に気絶させられ……マサルたちは!?」
キョロキョロと見回した先に倒れている2人と2匹を見付け、急いで起こした。
マサルたちもあの2体に攻撃を仕掛けた後の記憶が無いらしい。……もしかして、催眠効果のある霧だったのか?
「おーい!」
森の入り口の方角(たぶん)から、誰かの声が聞こえてくる。
俺たちの方へ走ってきたのはダンデさんだった。その隣ではリザードンがウールーを抱えている。
見たところ怪我も無さそうだし、とりあえずは一安心だ。
「ダンデさん! リザードンも!」
「アニキ、方向音痴なのによく来れたな」
「心配させておいて何を言っているんだ! いくら待っても来ないから探しに来たんだぞ」
「すいません、ダンデさん。俺たち、そこのウールーを探して森に入ったんです。
入っちゃいけないとは聞いてたんすけど、ウールーの身の安全を考えたらほっとけなくて……」
「ウールーは無事だよ。黙って森に入ったのはアウトだが、その勇気は認めよう。
だが……何故こんなところで倒れていたんだ?」
「そうだよ! 俺たち、さっき不思議なポケモンを見たんだぞ!」
ホップがさっきの出来事をダンデさんに話す。
彼はその言葉を聞いて、"何を見たというんだ?"と首を捻った。
「何かすごい威厳があってさ。とんでもない存在感なのに技が効かなくて……」
「効かないって言うよりは、技がすり抜けていったみたいだった……」
あの2体のポケモン、確か青い方が"今は実体じゃない"って言ってた気がする。
ってことはあの姿は幻で、本体は別のところにいるのか。
「ふむ……。まどろみの森に棲むというポケモンは幻なのか?」
「そういえば……ユウヤ、さっきあのポケモンを見た時に顔が強ばってたよね?
何か知ってたりするの?」
い、今その話題を振るのかマサル……!
「……いや、俺も何も知らねぇんだよ。
アイツらを見たのもさっきが初めてだし、なんかスゲェ睨まれてるみたいだったし……?」
"あの目"を思い出して、堪らず身震いする。
なんかこう……"本能的な恐怖"というものを感じた。
「わっ、ユウヤ顔が青いぞ!? 大丈夫か?」
「だ、大丈夫だ……たぶん……」
「とにかく、まずはこの森から出よう。
俺とリザードンが一緒だ。安心してくれ」
ダンデさんがポンと俺の肩を叩く。たったそれだけのことだけど、スッと緊張が解けた気がした。
"アニキが一緒なら安心だな! 方向音痴でなければ、だけど"というホップの言葉に、マサルとリザードンが軽く噴き出す。
空気を和ませようとしてくれているのを感じて、それがとてもありがたい。
ダンデさん(のリザードン)を先頭に、ハロンタウンに戻る道を歩く。
ふいに後ろを向いた俺の目線の先には、白い霧が広がるだけだった。
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