02




「おーい、ウールー! どこ行ったんだー!?」

「出ておいでー!」



霧で視界があやふやな中、ウールーを探す。

本当は別れて探した方が効率が良いんだろうけど……。自分たちが迷子になる訳にもいかないので、まとまって捜索を始めたのが数十分前。

ウールーが出てくる気配もなく、いたずらに時間だけが過ぎていった。

「マジでどこ行ったんだ、そのウールー?」

「霧が深くなってきたな……。そろそろ見つけないとマズイぞ」

もう少し探してみて、それでも見つからなければ大人に任せよう−−。3人でそう決めた時だった。

俺は背筋にゾクッとするものを感じ、それと同時に遠吠えのような鳴き声が聞こえる。

えっ、ウールーってヒツジ……ヒツジだよな? "メェー"って鳴くことはあっても"ウオーン"とは鳴かないよな?

「何だ、今の? 何かの鳴き声か?」

「ね、ねぇ! あそこに何かいる!」

マサルが指を指す方を見れば、霧の向こうに潜む2つの影。

その中から姿を現したのは犬かオオカミみたいなポケモンだった。

片や青い毛並みのしなやかなポケモン、片や赤い毛並みのたくましいポケモン。

どちらも眼光が鋭く光り、威風堂々とした姿は俺たちを圧倒させた。

「な、何だコイツら……!?」

「ポケモン……なのかな? まどろみの森に棲むっていう……」

困惑しながら会話するマサルとホップをジッと見つめていた2体のポケモンが、ついと俺に目を向ける。

ソイツらの目が俺を捉えた途端、俺の心臓がドクリと音を立てた気がした。

(何なんだ、この感覚……!)

息が詰まる、なんてもんじゃない。向こう側で光る4つのソレはまさしく狩人の目。

少しでも動けば襲われそうな空気に、全身が総毛立つようだった。

『妙な気配がすると思えば……。何故そのような姿なのかは分からぬが、そうか……貴様は"リーズン"だな』

「リー、ズン……?」

赤毛のポケモンが呟いた言葉を、思わずオウム返しする。

でも俺の喉は声を出すのがやっとで、傍から見れば滑稽なほど震えていた。

ついでに言うと、赤毛のポケモンが何を言いたいのかサッパリ分からん。

『……記憶を失っているか。まぁ良い。
貴様がここにいる。それだけで理由は十分というものだ』

赤毛のポケモンが、俺を睨む目をより厳しいものにする。

見つめ合っている(というか一方的に睨まれている)俺に物々しさを感じたのか、凪がボールから飛び出してきて水鉄砲を仕掛ける。

マサルとホップも自分のポケモンを出して攻撃したものの、こっちの技はスルリと相手の体をすり抜けていった。

「えっ、なんで……?」

「攻撃が全然効かないぞ!」

『ヤツを助けようとするとは……。知らぬとはいえ、愚かな』

『待て』

赤毛のポケモンがマサルたちに目標を定めた時、別の声が聞こえた。

もしかして、あの青毛のポケモンの声……なのか?

『下がれ、弟よ。今の我々は実体ではないのだぞ』

『しかし姉上……』

『しばらくは様子を見ていても良かろう。
"器"の影響か、それとも"己が司るもの"の影響か。どちらにしろ今は大人しくしているようだ。
故に、今回は手出しするまい』

なんか2人(2匹)で盛り上がってるとこ申し訳ないが、俺は頭がパニックでそれどころじゃない。

そもそも"リーズン"って誰なんだ?

"器"とか、"司るもの"とか……何の話だよ?

『……姉上がそう言うのであれば、仕方あるまい』

赤毛のポケモンが、全身から霧を発生させる。

逃げるなら今だ。頭では分かっているのに、体が動かない。

霧の中で俺が最後に見たものは、青毛のポケモンの……剣のように鋭利な眼光だった。

『だが心せよ、リーズン。我々はそなたの味方ではない。
そなたがこれから生きていく中でどうなるのか、見定めさせてもらおう』

だんだんと濃くなっていく白い視界の中で、青毛のポケモンの声が凛と響く。

そして俺たちは……そのまま気を失った。


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