02

マサルの母親手製の朝食で腹を満たした後、凪やマサルたちと一緒にリュックや道具をチェックする。

キャンプセットに、俺の財布。いつの間にかこっちの世界の紙幣と硬貨に変わってたのは不思議でしかなかったけど、小遣いもちゃんと入っていた。

あとビックリしたのが、元の世界で愛用していたノートパソコンとヘッドホンが入っていたことだ。

なんでこのリュックに入ってたのかとか、明らかにリュックのキャパ超えてるとかって理屈は置いておく。

まぁぶっちゃけ無くて困ることはねぇけど……唯一とも言える"俺の趣味"には欠かせないマストアイテムだ。

ちゃんと電源も入るし充電ケーブルもあるし、一応ネットにも問題なく繋がる。適当な頃合いになったら保存用メモリ買わないとな。

スマホ……は、そうだ。昨日ダンデさんに預けたんだった。

『マサルのお母さんのお料理、美味しかったね』

「だな。誰かの手料理食べること自体、随分久しぶりだったし」

身支度を整えてリビングに下りた俺の目に飛び込んできたのは、それはもう豪勢な朝食だった。

"3人分なんて久しぶりだから作りすぎちゃった"ってマサルの母親は言ってたけど。

どれも美味いからペロリと平らげてしまい、完食するのにそう時間は掛からなかった。

父さんも母さんも、俺が中学に入学した頃から仕事の忙しい日々が続いてたしなぁ。

2人揃って終電で帰ってくることも少なくなかったから、夕飯は自分で買い出しして適当に作って食べてた。

弁当に夕飯の残りのおかず詰めて持って行ってたっけな。

昔のことを思い返しながら荷物を詰めていると、ふと視線を感じた。

「どうした、マサル? 俺の顔に何か付いてるか?」

「あっ、ゴメン……ジロジロ見るつもりは無かったんだけど。
ユウヤ、ポケモンと打ち解けるのが上手だなって思って。
ヒバニーとも仲良くなってるみたいだし、今なんて凪と言葉が通じてるみたいだったよ」

秘訣とか、コツとかあるの? って聞いてくるその目は、とても純粋なものだ。

とはいえ本当に話しても良いものなのかどうか、俺は決めかねていた。

マサルが他人の秘密をペラペラ喋るようなヤツじゃなさそうなのは分かる。

凪……最初のポケモンを貰う時、自分たちよりも俺を優先してくれたくらいだ。

根が素直なんだろうってことも知ってるけど……。

「あの、さ……。絶対に引かねぇって約束してくれるか?」

「うん、約束する」

「俺の話聞いて、"頭のおかしいヤツ"って思ったりしねぇ?」

「そんなこと思わないよ。僕たち、もう友達なんだから」

そう言って、マサルは屈託のない笑顔で笑う。

子どもって時々すごく距離感近いことあるよな。心の方の。

でもその笑顔に少しだけ勇気を貰えたような気もしてるのも事実だ。

ここはマサルを信じてみるか……。

「俺、ポケモンの言葉が分かるんだよ。
なんでそんなことになったのかは、全然分かんねぇんだけどさ」

「えっ、すごい! 本当にポケモンの言葉が分かるんだ!?」

「ちょっ、マサル! 声デケェって!」

「ご、ごめん……!」

隣の家……は少し離れたところのホップの家くらいだから良いとして、マサルの母親に聞こえていないかと冷や汗が出る。

『そっかぁ、だからなのかぁ!』

「わっ、どうしたのヒバニー?」

「"だからなのか"って、どういう意味だ?」

『んー? 凪ってあんまり表情変わんないから、ちょっと感情が読み辛いとこあるんだよね。
ボクたちの言葉が分かるんなら、凪とすぐ仲良くなれたのも納得だなーって』

『や……無感情って訳じゃないんだけど』

『でもほんのちょっとしか変わんないじゃん?』

「……まぁ、凪がポーカーフェイスってのは分かったわ」

ジッ……と隣から視線を感じてそっちを振り向くと、マサルがキラキラした目で俺を見ていて。

"ポケモンと話せるの、良いなぁ"と羨ましそうに呟いた。

「あ、そうだ。マサルもヒバニーも、今の話はオフレコで頼むな」

「オフレコ?」

『何それ?』

「あー……"誰にも言わないでくれ"って意味」

マサルやホップたちを見ていて、本来人間はポケモンの言葉を理解できないのが当たり前なんだって分かる。そういう意味では俺の方がイレギュラーだ。

みんながみんなマサルみたいな羨望の目を向けてくれるとは限らない分、いたずらにこのことを公表するのは避けておきたい。

マサルたちは一瞬キョトンとしたものの、約束すると頷いてくれた。


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