03
「……うっま!」
焼きたてで肉汁の滴る赤身の肉に、勢いよくかぶりつく。
口ん中火傷しそうになったけど、丁寧に擦り込んだ香辛料の香りが鼻腔をくすぐった。
そういえばこっちに来る直前って放課後だったから腹減ってたんだっけか。
"空腹は最高のスパイス"っていうの、アレ本当だな。メチャクチャ美味い。
美味い、けど……何の肉なのかは聞かないでおいた。世の中には知らなくて良いこともあるはずだ、うん。
「ユウヤ君って料理上手なのね。手際が良くて助かったわ」
「親が共働きだったんで、自分で作るしかなかっただけっすよ。
それに"料理"っつっても焼いたり炒めたりするくらいで、揚げ物とか煮物は作れねぇし……」
「ユウヤ、次焼けたみたいだけど食べる?」
「お、良いのか? じゃあ今の食い終わったら貰うわ」
「ユウヤ君、食べ盛りなんだから遠慮せずに食べてね!」
ほらほら! と言いながら焼きたての串を2、3本手渡してくるホップの母親。
いや……ありがてぇけど、1度にそんな食えねぇっす。
(……?)
ふと足元から視線を感じてそっちを見ると、凪が俺をジーッと見つめていた。
そしてその視線は、俺の手に握られたバーバキューの串に注がれている。
リザードンやサルノリたちも食ってたし、人間の食べ物を与えても良いんだろう……たぶん。
「……1本食うか、凪?」
『良いの?』
「おぅ。口ん中火傷しないようにな」
凪は俺から串を受け取ると、フーフーと冷まし始める。
そのままかぶりついたもののやっぱり熱かったのか、今度は口から水を出して串に掛けていた。……良いのか、それで。
「ユウヤ君。君はポケモンのいない場所から、身1つでガラルに来た……。
これに間違いは無いね?」
「そうっすね。まぁ"身1つ"って言っても流石にスマホは持ってますけど……」
「とはいえ、君は今ポケモンと旅に出る上で必要になる道具を持っていない。
どうだろう。家の倉庫に、もう使われていないキャンプセットがあるんだが……」
「キャンプセット?」
キャンプって、あのキャンプだよな?
自然の中にテント張って飯作って、何なら焚き火でデザートにマシュマロ焼いたりして。
後は寝袋に潜り込んで眠る。そのキャンプの認識で合ってるよな?
いまいちピンと来ていない俺に、ダンデさんが詳しく説明してくれる。
基本的にガラル地方のホテルはジムチャレンジの選手で埋まるらしく、オフのシーズンは観光客で埋まるとかで。
運良く部屋が空いていれば御の字ではあるが、満室の場合は野宿せざるを得ない。
万が一そういうことが起こった時のために、ジムチャレンジャーはキャンプセットを持ってガラルを巡るそうだ。
……俺の知ってるポケモントレーナーのイメージとだいぶ違うぞ。
ガラルのトレーナーって、ポケモンセンターに泊まるんじゃないのか……。
「いただけるならありがたいっすけど……良いんすか?」
「もちろん! 倉庫で埃を被っているよりはずっと良い。
君さえ良ければ使ってくれ」
"ロトムも明日、君のスマホに入れてあげよう"と、満面の笑みを浮かべるダンデさん。
そんな彼にお礼を言いつつ、これから始まる凪との冒険に思いを馳せた。
……ところで、"ロトム"って何なんだ?
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