02
ダンデさんに連れられて行ったのは、この家の庭先にある小さなバトルコート。
彼はその真ん中で足を止めると引き摺っていた手を離し、ホップとマサルを含めた俺たち3人の方へ向き直った。
グローブを付けているその手には、お馴染みのモンスターボールが3つ握られているのが見える。
「待たせたな! では早速、素敵なポケモンたちのアピールタイムだ。
どんなポケモンたちなのか、よく見るんだぞ」
アンダースローで投げられたボールが、緩やかな弧を描いて落ちていく。
その中から、3引きのポケモンたちが姿を現した。
水色のカエル(いや、トカゲか……?)のようなポケモンが池に飛び込み、ウサギのようなポケモンは足から火花を散らして走り回る。
黄緑色の小猿のようなポケモンは木の上に登り、頭に乗せている小枝を取り出して木の実を叩いている。
……フリーダムだなアイツら。動物って案外そういうもんなのかもしんねぇけど。
ダンデさんが声を掛けるとすぐに寄って来て、俺たちの前に並ぶ。
「左から順に草タイプのサルノリ、炎タイプのヒバニー。そして、水タイプのメッソンだ。
3匹とも人懐っこいが、君たちと同じでまだ外の世界を知らない。
最高の相棒……生涯のパートナーになるポケモンだ、よく考えて選んでくれ」
いや選び辛いわ、と言いそうになったのを必死で飲み込む。
そりゃ1匹しか選べないわけだし、これから一緒に旅を始める最初のパートナーだ。
けど"最高の相棒"とか"生涯のパートナー"って単語を出されると、何つーかこう……プレッシャーがな?
「んー……。俺、ユウヤさんが最初に選ぶべきだと思うぞ」
「え」
そう言ったホップの言葉に、俺は思わず耳を疑った。
いや、待て待て待て。さも当然みたいに言ってっけど何でそうなる?
「ちょいタンマ。お前ら、今日が来るのを楽しみにしてたんじゃねぇの?
いくら何でも、年上の俺が先に選ぶ訳には行かねぇだろ」
「だって俺にはウールーがいるし、ユウヤさんはポケモン見るのも初めてなんだろ?」
「俺もママのゴンベと育ってきてるから、全くの初心者って訳じゃないので。
だから俺たちに構わず、先に選んでください」
純粋なその瞳が眩しく見える……というか眩しい。
マジで良い子過ぎるだろ。親御さんの育て方が良いんだろうな。
「そ、そこまで言うんなら遠慮なく……。ってか、呼び捨てとタメ口で良いから」
申し訳なさが完全に薄れた訳じゃねぇけど、ここまで言われて"否"とは言えねぇよなぁ……。
3匹のいる方に目線を向けると、期待に満ちた眼差しで俺を見ている。
「……じゃあ、メッソン? で」
爬虫類って結構好きだし、1人暮らしとかするようになったら飼ってみたかったんだよな。
理由? そりゃあ、カッコ良いだろ。
イグアナとか、(架空生物もアリなら)ドラゴンとか。
「よし、今日から俺とお前はパートナーだ。よろしくな、メッソン」
メッソンの前で膝を突き、その大きくて青い瞳を見る。
メッソンはパッと笑顔で"うん、よろしく"と返した。
ヒバニーはマサルとハイタッチしてるし、サルノリはホップの肩に飛び乗ってるから、コイツは比較的大人しめな性格なんだな。
「良いポケモンを選んだようだな。さぁ、これがメッソンのモンスターボールだ」
「どもっす」
メッソンのモンスターボールを受け取って、俺はあることを思い出した。
ポケモン貰ったんなら、ニックネーム付けた良いよな?
元の世界にいたアイツも飼い犬に"ペロ"って名前付けて溺愛してたし。
「あの……自分のポケモンって、ニックネームとか付けても良いんすよね?」
「それはもちろん! どんな名前を付けるんだ?」
「んー……。……凪」
「なぎ……?」
「おぅ、風が吹いてない海って波が穏やかだろ?
コイツの大人しそうな感じが、そのイメージに重なったんだよな。
どうだ、メッソン?」
『なぎ……なぎ……。うん、良いと思う……!』
メッソン本人が気に入ってくれたことに安堵していると、離れたところから俺たちを呼ぶ声が聞こえた。
ホップの母親と……誰だ、あの隣の人。
「あれ、どうしたのママ?」
「ホップ君のお母様に、"バーベキューするから"って誘われたのよ。
……それと、あなたがユウヤ君ね? マサルの母です。
息子と仲良くして貰えると嬉しいわ」
「あ、はい。そりゃあ、もちろん」
なるほどな、マサルの母親か……。
確かによく見れば、目元とか雰囲気とか似てる気がするわ。
「さて! 全員揃ったし、早速始めましょうか。
ダンデたちは道具の準備をお願いね」
「あ。じゃあ俺、仕込みの方手伝うっす」
「あら、本当? 助かるわぁ。
じゃあお願いしようかしら」
道具を準備する係と、食材を仕込む係。二手に分かれて作業を開始する。
バーベキューの準備が終わる頃には、高い位置にあった太陽も落ち始めていた。
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