03
「あれ、シオンちゃんじゃないか」
「あらおば様、ご機嫌よう」
露店が多く出ている通りを歩いていると、昨日のおば様と偶然再会した。
確か自家製のオリーブオイルを販売なさっているのだったかしら。
「お祭りは楽しんでるかい?」
「えぇ、とても。お天気も良くて賑わっていて何よりですわ」
「そうねぇ。先週が雨続きだったから心配してたけど、何とか開催できて一安心だよ」
「……あ、そうだわ。
おば様、こちらのオリーブオイルを1つくださる?」
「はい、まいど」
商品の代金を支払って、オリーブオイルのボトルを受け取る。
ミニーブたちと戯れている若葉たちを横に見ながら、大事にカバンへとしまった。
「そういえば、今日は優慈さんと一緒じゃないんだねぇ?」
「えぇ。おじ様もお店を出すそうですから、そちらの方に」
「確かに毎年アクセサリーを売りに来てるわね。
この町の名産に合わせてるのか、必ずオリーブをモチーフにしたアクセサリーなんだよ」
オリーブの花言葉は"平和"−−。
心根の優しいあの方らしいモチーフだと思う。
(そういえば……)
昨日のあの言葉の意味を、今聞いてみようかしら。
あの時はおじ様とのお話を邪魔してはいけないと思って、聞くことができなかったから。
「おば様。お聞きしたいことがあるのですけど、よろしくて?」
「おや、何だい?」
「昨日優慈おじ様とお話されていた時の、"べっぴんさん"というのはどのような意味ですの?」
おば様は私のその言葉を聞くと、僅かに目を見開いてキョトンとした顔になった。
な、何かおかしなことを聞いてしまったのかしら……。
それとも単に私が無知なだけで、他の方は当たり前のように知っているの?
「あぁ、そっか。やけに不思議そうな顔をしてるとは思ってたけど、言葉の意味が分からなかったんだね」
「お恥ずかしい限りですわ……」
「"べっぴんさん"っていうのは、簡単に言えば"美人さん"って意味さね。
毎年1人でこの町に来るあの人が、こんなに綺麗で可愛い子と歩いてるんだから驚いたよ」
「美人……?」
私よりお綺麗な女性の方は大勢いらっしゃるし、自分の容姿に自信がある訳ではない。
でも褒められていることは伝わって来るので悪い気はしなかった。
日頃からスキンケアに気を付けておいて良かったわ……。
「その様子じゃ、もしかして"好い人"の意味も知らないんじゃないかい?」
「そう、ですわね……」
「教えてあげるから、ちょいと耳を貸してごらん」
秘密の話をする時のように、口元に手を添えて少しだけ身をかがめるおば様。
私もそれに倣って同じように身をかがめると、おば様がいたずらっ子のような表情を浮かべた。
「あの場合の"好い人"っていうのはね……恋人のことだよ」
「こ、こいび……っ!?」
全身の熱が一気に顔へ集まってくるような感覚がする。
今まで恋愛話とは全く縁が無かったけれど、私も一応は"お年頃"な訳で……!
ということはあの時、お付き合いをしている関係だと思われてたということなの!?
「あ、あの……! 私とおじ様はそういった関係ではなく!」
「大丈夫、ちゃんと分かってるよ。優慈さんから何度も釘を刺されたからね。
とはいえ、あの人ももう良い歳なんだ。"そろそろお嫁さんを貰っても良いんじゃない"って言ったら、いつも困ったみたいに笑って誤魔化すんだよ。
まぁ、こればっかりは本人の気持ちの問題だからねぇ。周りがとやかく言ってもあの人にその気が無いなら、そっとしておくのが良いのかもね」
優慈おじ様は1人でこのパルデアを旅していらっしゃると、本人の口から聞いた。
何故ポケモンも連れずに各地を渡り歩いているのか。その目的は私にも分からない。
昨日言っていた"辛い記憶"が何か関係しているのかしらとは思うけれど……。おじ様が"話しても良い"と思うまでは、深く聞かない方が良いのでしょうね。
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