06
「……素敵ね。自分の夢に真っ直ぐ向き合えるあなたなら、きっと大丈夫よ。
あなたのその夢が叶うように、私も願っているわ」
『そう、か……。それなら……』
どことなくキリッとした顔つきになったカルボウが、私の右手に小さな手をそっと乗せる。
その行動の意図が読めず、思わずキョトンとしてしまった。
『マスター』
「ま、マスター……?」
「……佑真、"マスター"って何?」
「さぁな、俺も知らん」
「マスターというのは、"主"とか"主人"という意味の言葉だよ。
つまりカルボウは#name1#を自分のトレーナーに選んだんだね」
『へぇー! じゃあ仲間が増えるってことだ!』
若葉たちが隣でそんな話をしていることにも構わず、私はカルボウが呟いた単語を反芻していた。
マスターって……誰が? 誰の?
いいえ、本当は理解っている。"マスター"という言葉の意味も、カルボウが誰のことをそう呼んだのかも。
「私……!?」
『はい。紛れもなく貴女のことです、マスター』
カルボウが心底不思議そうな顔をしながら、首を傾げるのが見えるけれど……。
「でも、どうして私なの?」
『貴女は俺を助けてくれた上に、俺の夢を否定しなかった。そんな貴女だからこそ、俺が生涯を捧げるに相応しい主だと思った。
俺にとって理由などそれだけで充分というものです。
ですのでマスター、俺を貴女の旅路にお供させてください』
カルボウの赤い瞳が風を受けて燃え上がる炎ように、ボゥ……と小さく音を立てた気がした。
若葉たちの方へ視線を向けても、"シオンの好きにしたら良い"という返事が返ってくるのみ。
私も新しいお友達が増えるのは大歓迎なのだけれど……本当に良いのかしら。
沈黙の長さが不安になったのか、カルボウがどことなくシュンと顔を曇らせたように見えた。
『……やはり、未熟者の俺では心許ないでしょうか?』
「そ、そんなことは無いわ! そんなことは無いのだけれど……。
あなたは、本当に私で良いの?」
『貴女という主にお仕えしたい……この気持ちに偽りはありません。
ご迷惑でなければ、どうかお側に』
迷惑だなんて思うはずもない。
成り行きとはいえ、こんなにも慕ってくれているのだ。
断る理由なんて初めから無かったのかもしれない。
「……ありがとう。あなたのその想い、受け取りました。
これからよろしくね、"陽斗"」
『ひな、と……?』
「世界に1つしかない、あなただけの名前よ。
"誰かの助けになりたい"というその思いが、あなたの進む道を暖かく照らしてくれるように……。嫌だったかしら?」
『……いえ。ありがとうございます。
マスター、今ここに誓いを。貴女の進む道に、どこまでもお供します。
どのような苦難が現れたとしても……。貴女のため、俺の炎で焼き払いましょう』
「焼き払うというのは、その……少し……」
「物の例えだ。字面通り取るんじゃない」
「っていうか、僕たちもいるの忘れないでよ?」
「ハハハ、小さくも頼もしいナイトの仲間入りだね」
『やったね、シオン!』
ボールベルトからモンスターボールを1つ取り外す。
カルボウ改め陽斗の眼前に差し出すと、コツンと真ん中のスイッチに触れて。
彼はボールへと吸い込まれていき、カチッという音と一緒にその中へ収まった。
「出ておいで、陽斗」
両手に乗せて掲げたボールから、陽斗が姿を現す。
これで彼は正式に私たちの仲間となったのだ。
「カルボウ……いいえ、陽斗。これからみんなで頑張りましょうね」
『はい、マスター』
若葉たちも駆け寄ってきて、陽斗の仲間入りを喜んでくれる。
彼の目に灯る誓いの炎は力強い色を宿していた。
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