05

「どうしたの、カルボウ?」

『貴女は、このパルデアを旅していると言っていたな』

「旅……と言えるかどうかは分からないけれど、そうね。
今はアカデミーも課外授業の時期だから、色々な場所に行ってみたいと思っているわ」

『そうか。……貴女は、"なりたい自分"というものがあるか?』

「え……?」

カルボウの赤い小さく燃える火のような瞳が、私を見つめる。

その光は、あまりにも真剣なものだった。

『俺は……生まれた時から生きる道を決められていた。
いつか父の跡を継いで、住処の森一帯のポケモンたちを束ねるリーダーになるのだと……そう言われて育ってきた』

その言葉に、心臓がドクリと脈打つ気がした。

それは彼の境遇が……あまりにも私に重なるからだ。

(そう……。この子は、私と同じなんだわ……)

親の言い付けに従い、いつか跡取りにと望まれ……。"自分の進みたい道を選ぶ"という選択肢すら与えられない。

どこまで行っても、私は両親の操り人形(マリオネット)でしかないのだと……そう思いながら生きてきた。

けれどアカデミーに入学したあの日……。ネモに将来のことを聞かれて気付いた。

私は……この世界にいる間だけは自由なのだと。

親に縛られること無く好きなことをして良い。"自分の夢"を追い掛けても良いのだと。

そしてそれはカルボウも同じ。彼に進みたい道が……なりたい自分があるのなら、その夢を追い掛ける権利はあるのだ。

「分からないわ。課外授業も最近始まったばかりだし、自分の夢も理想の姿も……私はまだ持ち合わせていないの。
私もあなたと同じで、生まれた時から生きる道を決められていたから」

『貴女も……か?』

「えぇ。でもね、"なりたい自分がある"って素敵なことだと思うの。
そこに人間とポケモンの区別は無いのよ、きっと。
……ねぇ、せっかくだから聞かせてくれないかしら? あなたが将来どうなりたいのか」

私の言葉に、カルボウの目が明らかに泳ぐ。本当に話しても良いものなのかどうか、迷っているようにも見えた。

本来心の拠り所であるはずの親から否定されてきたのだ。昨日出会ったばかりの人間に話すことを躊躇うのも仕方がない。

すると自分の中で決心がついたのか、カルボウが"俺は……"とポツリと零した。

『俺は……自分の全てを捧げられる誰かのために戦いたい。
リーダーとして引っ張るのではなく、生涯仕えると決めた主人を側で支えたい……!』

次第に声に熱が入り、自分の夢を再確認するような声音に変わっていく。

それがあなたの"理想の姿"なのね、カルボウ……。



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