02

"……ぃ、……ろ……"

夢の縁で微睡む私の耳に、誰かの声が聞こえてくる。

優慈おじ様のものとは違うけれど、低くて落ち着く声。

"お……、……きろ……"

その声はどんどん近付いてくる。肩を揺さぶられる感覚と同時に意識が浮上していく。

起きた私の目に飛び込んできたのは……。

「起きたか」

「……」

起きたばかりの私を見下ろしている、明るい茶色の髪の男性だった。

突然のことに呆然してしまい、思考回路もフリーズする。

やっとの思いで口にしたのは部屋中に響く悲鳴だった−−。



「ハァ……。全く、朝から酷い目に遭ったぞ」

「ご、ごめんなさい……」

ベッドのへりに座る私の頭上から、呆れたようなため息と声が降りてくる。

あの後、私の悲鳴が聞こえたらしいホテルのベルボーイやスタッフたちが駆け込んで来たのだけれど……。

部屋にいた佑真を不審者だと勘違いしたのか、警察に連絡を始めようとしていて。

そこへタイミング良く合流した優慈おじ様と若葉が慌てて事情を説明し、ようやく解放されたのがさっきのこと。

そう……私を眠りから起こした彼は、擬人化した佑真だったのだ。

「ま、まぁまぁ……。
シオンは君が擬人化したことを知らなかったんだ。
若葉に起こしに行ってもらわなかった、僕の判断ミスだったよ」

「そんな……」

優慈おじ様は佑真への誤解を解いてくださった。

私たちに謝る必要なんて、どこにも無いのに……。

「それよりも、朝のご挨拶がまだでしたわね。ご機嫌よう、優慈おじ様。
若葉たちもおはよう」

「あぁ。おはよう、シオン」

「おっはよー、シオン!」

『オハヨー……って、それどころじゃないんだよシオン!
昨日のポケモン、いなくなっちゃったんだ!』

「"昨日の"って、カルボウが……!?」

慌ててソファーに視線を移せば、その上はもぬけの殻だった。

ジョーイさんたちの治療で傷が塞がったとはいえ、まだ万全の状態ではないのに……!

「まさか、グレンアルマにさらわれて……?」

「それは無いと思うな。グレンアルマは正々堂々とした勝負を好む傾向が強い種族だからね」

「そうだな。ソウブレイズならともかく、グレンアルマが俺たちを出し抜くとは考えにくい」

「ソウ、ブレイズ……?」

また知らないポケモンの名前が出てきたわ……。

スマホロトムにソウブレイズの図鑑ページを見せてもらうと、両手が剣のようになった紫色のポケモンが映っていた。

顔付きはカルボウやグレンアルマと似ている気がするけれど、何か関係があるのかしら。

『ホテルの外に出たって可能性もあるかもよ?
元は野生のポケモンなんだし、ケガが治ったんならここにいる理由は無いんじゃない?』

「どちらにせよ心配だわ。早く身支度を……」

『……む。なんだ、全員起きてきたのか』

突然部屋の外から聞こえてきた、若葉たちのものとは違う声。

そちらへ視線を向けた先には……カルボウの姿があった。


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