03

(逃げることも勇気……か)

ジョーイさんに呼ばれたシオンたちと一旦別れ、セルクルジムの裏手の壁に背を預ける。

そして、"我ながらよく言えたものだ"と自嘲した。

確かに彼女たちに言ったことは間違いではない。……間違いではないけれど。

(僕には……そんなことを言う資格も無いのに……)

彼女たちと、あの頃の僕とでは結果がまるで違う。

僕はあの時、大切な人を守るために逃げることを選んだ。でも結局……僕は何も守れなかった。

目を閉じると嫌でも思い出す。逃げ惑うひとたちの悲鳴と、それを追い掛ける咆哮。血に濡れて倒れ伏す僕の家族。

そして……半狂乱になりながら僕を見て、怯えた顔で泣き叫ぶ"あの子"の姿。

あの一件から随分経つというのに、未だに大きな心の傷となって僕を苛む。

"お前は何も守れやしないのだ"と突き付けるように……心臓がズキズキと痛む。

それでも……"やっぱり戦えば良かった"と何度悔やんだことか。

そこまで考えて、ふと気付いたことがあった。

シオンと初めて出会った時に見た、"あのポケモン"……。

僕の推測が正しいのなら、あれは……。

(……いや、今ここで考えていても仕方ない)

仮に"あのポケモン"がそうであったとしても、今は様子を見ているしか無いのだろう。

僕があれこれと口出しをする訳にもいかないし、彼女に不要な混乱を招くのも本意ではない。

(会いたい……)

脳裏に"あの子"の笑顔が蘇る。

明るくて、無邪気で、名前の通り光り輝くような……。記憶の中のあの笑顔は、未だ色褪せてはいないのだ。

「会いたいよ……ルシア……」

震える口から零れ落ちたその声は……誰にも聞かれることなく虚空へと消えていった。


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