02



「そう、か……。そんなことがあったんだね」



私はあの時あったことを、全て優慈おじ様に話した。

カルボウが全身傷だらけだった理由も、グレンアルマがあの子に言い放った言葉のことも。

そんな彼に……手も足も出なかったことも、全て……。

「私、何もできませんでした……。佑真がグレンアルマと戦ってくれなかったら、もっと酷いことになっていたかもしれない。
でも代わりに、佑真を酷い目に合わせてしまった……」

何もできなかったという事実が悲しくて、悔しかった。

私がグレンアルマに啖呵を切ったりしなければ……こんなことにならずに済んだはずなのに。

(あんな時、ネモなら彼と対等に戦えたのかしら……)

自分の弱さをまざまざと見せつけられた。何度かバトルに勝てたのだから、野生のポケモンが相手でも大丈夫……その認識自体が甘いのだと思い知らされた。

私は……なんて無力なのだろう……。

「……シオン」

罪悪感で涙を流す私を呼んだ若葉の方を向く。彼はその小さな手で、涙を拭ってくれた。

でもいつもの天真爛漫さは鳴りを潜め……大きな苦しみを抱えているような、とても静かな声だ。

「シオン、ゴメン……」

「若葉は何も悪くないわ。私がもっと……」

「違う……違うんだ。僕、あの時怖かったんだよ」

若葉の口から飛び出した言葉に、思わず"え?"と零す。

「僕は草タイプだから、炎タイプのグレンアルマとは相性が悪い。
それに佑真が簡単に倒されちゃったのを見て、怖くなったんだ……。
ごめんなさい、シオン。僕もシオンを助けなきゃいけなかったのに、動けなかった……!
佑真にだけ傷を負わせて、何もできなかった!」

彼の目尻から、とうとう大粒の涙が零れ落ちる。

そのまま泣き出してしまった若葉を、私は抱き締めることしかできなかった。

"そんなことはない"と、本当は言ってあげたい。でも彼と同じで何もできなかった私が……どんな言葉を掛ける資格があるというのだろう。

「シオン、若葉。顔を上げて」

優慈おじ様の声が、頭上から降りてくる。

言われた通りに私と若葉はゆっくりと顔を上げた。

いつの間にか私たちの正面に来ていたらしい優慈おじ様。彼の赤い瞳に、強い光が宿っているように見えた。

「2人とも、自分を責め過ぎてはいけない。君たちは旅立ったばかりなんだ、逃げることは恥ではないよ」

「……グスッ……なんでぇ?」

「そのグレンアルマは強敵だったんだろう? 今の君たちでは"敵わない"と思うくらいに」

「それは、そうですが……」

「パルデアに限らず、旅をしていれば強いポケモンと戦うこともあるだろう。でも、"勝つこと"だけが全てじゃない。
仲間や大切な人を守るために逃げることを選択する……それも1つの勇気だよ」

「守る、ため……」

おじ様の言葉が熱を持って、私の心に染み込んでいく。

罪悪感が消えた訳ではないけれど、不思議と前を向かせてくれるような……そんな声だった。

「……僕、強くなりたい。シオンのこと守れるくらいに。
苦手なタイプが相手だからって、逃げるだけなのは嫌だ」

目元の涙をグイッと拭い、真剣な目付きで優慈おじ様を見る若葉。

そんな若葉を見て、優慈おじ様はクスリと笑った。

「君は強い子だね、若葉。君なら……いや、君たちなら大丈夫だ。
今はまだ芽吹いたばかりでも、色んな経験を積めばきっと立派な大樹に成長する。
僕はそう思うよ」

「……うん、頑張る!」

「よし、良い子だ。シオン、君ももう自分を責めるのはやめなさい。
佑真が元気になったら、"ありがとう"と言ってあげると良い」

「はい……。ありがとうございます、おじ様」

おじ様の優しい声が……背中を押してくれた気がした。


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