02
町のホテルで宿を取り、セルクルタウンの散策に出掛ける。
あのおば様の言っていたことがどうしても気になって、隣を歩くおじ様に声を掛けた。
「あの……おじ様?」
「うん? 何だい?」
「先程のおば様が言っていた"ゆうじ"という名前ですが、もしかして……」
「あぁ、僕の名前だよ。それがどうか……あっ」
ハッとした表情で、私の言いたいことを理解してくれたらしい。
気まずそうに笑いながら"すまないね"と言った。
「そういえば自己紹介をしていなかったっけ。
少し遅くなったけど、僕は優慈.
お嬢さんの名前も聞いて良いかな?」
「えぇ、もちろん。私はシオン。
そしてニャオハの若葉とコジオの佑真です。改めてよろしくお願いしますわ、優慈おじ様」
お互いが改めて自己紹介をした後、セルクルタウンの散策を再開する。
どこを歩いても町の人たちの笑顔が溢れていて、お祭りは明日だと言うのに楽しくなってしまう。
「そういえば、おじ様は普段どのようなことをしてらっしゃるの?
旅行というにはあまりに荷物が少ないような……」
「普段、か……」
優慈おじ様は少し顔を曇らせたけれど、すぐにあの優しい表情に戻る。
一瞬だけ見えたソレは、どこか寂しげな色を写していた気がした。
「僕はね、普段はこのパルデアの各地を旅しているんだ」
「お1人で、ですか……?」
「うん、そう。昔は家に家族と住んでいたんだけど、ね……」
再び、優慈おじ様の表情が曇る。
いいえ、"曇る"と言うよりは"歪む"と言った方が正しいのかもしれない。
優しいお顔が印象的なおじ様だけれど、あのような顔もなさる方なのね。
もしかしたら、私の質問が悪かったのかもしれないわ……。
「ごめんなさい……。何か嫌なことを思い出させてしまったのでしょうか?」
「あぁ、僕の方こそすまない。君が落ち込む必要は無いんだ。
ただ……僕にとって辛い記憶に関係する質問だったものだから、つい……」
『……話を戻すが、お前は本当に1人で渡り歩いているのか?
しかも、手持ちのポケモンも連れずに』
そう言われれば、確かにおじ様の腰元にはモンスターボールが1つも着いていない。
この世界では誰もがポケモンを連れているのだと思っていたけれど、そうではない人もいるのかしら……。
「佑真の疑問も分からなくはないよ。実のところ、僕はポケモントレーナーじゃないんだ」
「え……っ?」
自然に、声が出てしまった。
私の聞き間違いでなければ、優慈おじ様は佑真と会話を……?
「シオン? どうかしたかい?」
「おじ様……どうして佑真の言ったことがお分かりになったの?」
「……! ……君は、どうしてだと思う?」
質問に質問で返されてしまった……。
どうして私の言葉に驚いた顔をしたのかはすごく気になるけれど、深く追求しない方が良い……わよね。
「そ、そうですね……。おじ様も、ポケモンの言葉が理解できる方だから?」
「うん、正解。君は聡明な子だね、シオン」
"よくできました"と言いながら、私の頭を優しく撫でる優慈おじ様。
お父様にもお母様にも面と向かって褒められたことが無かったから、面映ゆさを感じてしまって少し落ち着かない。
「……あっ、すまない! 子ども扱いした上に、女性の頭をいきなり撫でるなんて不躾だった」
「い、いえ! 嫌だとか、気に触ったとかではないのです!
ただ……頭を撫でてもらうことが無かったので、驚いただけで……。
と、とにかくお気になさらないでくださいな」
「そ、そうか……。君が気にしてないなら良いけど。
それよりさっき"おじ様も"って言ったということは、もしかして君も……?」
「えぇ……。理由までは分かりませんが、どういう訳かポケモンと言葉で意思疎通ができるようですの。
あまり他の方に知られてもいけないような気がして、普段はそうと気付かれないように振る舞っているのですが……」
「確かにポケモンの……しかも"原型の"言葉が分かる人間というのは極めて少ない。
だから、このことは僕と君たちだけの秘密にしよう。約束できるかい?」
「分かりました」
私の言葉に、ニコリと笑顔になる優慈おじ様。
自分以外の誰かの秘密を共有するというのは初めての経験で、私もつられて笑顔になった。
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