01
「はい、到着。ここがセルクルタウンだよ」
「わぁ……!」
ランチを食べて、歩くこと数十分。
私たちは目的地であるセルクルタウンに足を踏み入れた。
町の至るところにオリーブ畑があり、この町の名産であるというのも納得がいく。
大通りの方では明日のお祭りの準備中なのか、たくさんのテントと大勢の町の人たちの姿が見えた。
「すごい活気ですわね」
「収穫祭は年に1度のビッグイベントだからね。
町の人たちもジムリーダーも、この時期は忙しいみたいだよ」
『わぁ、きょねんのおじちゃんだー!』
大通りを歩いていると、どこからか可愛らしい声が聞こえてくる。
声のした方を見れば、そこにいたのは黄緑色の小さなポケモンたちだった。頭の上には黄色のオリーブ? が乗っている。
私たちを……正確にはおじ様を見てニコニコと笑っていた。
「あのポケモンは……」
「あの子たちは"ミニーブ"というポケモンだよ。
光合成で作った栄養をオイルにして頭の実に蓄えているから、1週間は飲まず食わずでも平気なんだ。敵に襲われた時の攻撃手段としても使われるよ」
図鑑アプリでミニーブをスキャンしてみる。
この子たちは草・ノーマルタイプなのね……。若葉と少し似ているわ。
「やぁ、坊やたち。今年もお世話になるよ」
『おばばー! おじちゃんがきたよー!』
ミニーブたちの声が聞こえたのだろう。
離れたところでテントの設営をしていたおば様が、私たちの方へ振り向いた。
「あらまぁ、優慈さんじゃないか! 今年も来てくれてありがとうねぇ」
「ゆうじ……?」
聞き慣れない名前が聞こえてきて、思わずそう呟く。
話の流れを考えると、もしかしておじ様の名前?
そういえば私たち、自己紹介がまだだったような……!?
「ご無沙汰してます。このお店のオリーブオイルは鮮度が良いから、お世話になってますよ」
「おやおや。嬉しいけど褒めたって安くはしないよ?
ところで……そっちの子は初めて見る顔だね」
おじ様と話をしていたおば様の目が、私を見る。
次の瞬間、彼女はからかうようにおじ様を小突いた。
「もしかして、アンタの"好い人"かい?
こんなべっぴんさんが彼女だなんて隅に置けないねぇ、色男」
「べっ……ぴん……?」
聞いたことの無い単語に、思わず首を傾げる。
その隣では、おじ様が"えっ!?"と驚いたような声を出した。よく見ると、頬が少し赤いような……。
「あ、いや……! 彼女とは初対面だし、そんな関係じゃなくて!
……セルクルジムに挑戦しに来たそうですよ。目的地が一緒だったので、せっかくだからと誘ったんです」
おじ様のその言葉を聞いたおば様が、"なんだ、違うのかい"と苦笑いする。
"べっぴん"と"好い人"……。言葉の意味を聞いてみようと思ったけれど、おじ様の様子を見るとやめておいた方が良いのかしら……。
ひとまず何も聞かなかったことにして、私はおば様にご挨拶した。
「ごきげんよう、おば様。
私はシオンと言います。どうぞよしなに」
「よろしくね、シオンちゃん。そっか、この時期は宝探しが始まるものねぇ。
カエデちゃんも今日明日はお店が忙しいから、収穫祭が終わってからの方が良いと思うよ」
カエデさんという方が、この町のジムリーダーらしい。
普段は"ムクロジ"というお店でお菓子を販売しているパティシエなのだと、おば様が教えてくれた。
そういえばおじ様も、有名なパティスリーがあるよと教えてくれたのだっけ。その時に"ムクロジ"の名前も聞いた気がする。
「パティシエとジムリーダーを兼業なさっている方なのですね」
「カエデちゃんの作るスイーツはどれも美味しくてねぇ。数量限定のスイーツなんかは、午前中に売り切れることもあるくらい人気のお店なんだよ。
#name1#ちゃんも機会があったら食べてみな。でも食べ過ぎてあたしみたいに太るんじゃないよ?」
「フフッ、私もスイーツは大好きですわ。
甘いものを食べると幸せな気持ちになりますもの」
ジム戦が終わったらお店に行くのも良いかもしれない。
そんなことを思いながらおば様と分かれ、まずは宿泊部屋を確保するためにホテルへと向かった。
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