02

自分の脚で歩いたり、時々ミライドンの背中に乗せてもらったりしながらセルクルタウンへと向かう。

その近辺に広がっている南2番エリアの真ん中辺りまで来たところで、ちょうどお昼時になった。

シートを広げて簡易調理器具を取り出し、まな板へと向かう。

『……ねぇ、シオンってお料理できるの?』

「正直に言ってやったことは無いけれど、昨日ペパーさんにお野菜サンドの作り方を教えてもらったから」

『やった! サンドイッチ!』

まずはお野菜を切って……切る時の左手はニャオハの手……。

トン……トン……とすごくゆっくりではあるけれど、何とか全てのお野菜を切り終える。

"手だけは切らないように気を付けろよ"というペパーさんの教えもあって、何とかケガもせずに済んだ。次は……盛り付けだ。

「えっと、オリーブオイルに塩とビネガーを……あれ?」

まな板の横に置いた調味料を使うべく、視線を隣に移す。

でもそこには佑真に分けてもらった塩と、ビネガーしか無かった。

『どうした?』

「オリーブオイルが無い……。もしかして、買い忘れ……!?」

どうしよう……。セルクルタウンはすぐそこだけれど、せっかく切ったお野菜をしまい込む訳にもいかない。

"オリーブオイルは他の料理にも割と使うから、切らさないようにした方が良いぜ"って言われてたのに……。

『……まぁ、無いものは仕方ない。ビネガーと塩だけでやるしかないだろ』

「そうよね……。ごめんね、みんな……」

次にお買い物に行った時は、絶対に忘れないようにしなくちゃ。

そう心の中で決心してトマトを手に取った時、ふと誰かから声を掛けられた。

「そこのお嬢さん、どうしたんだい?」

「え……?」

聞こえてきた声に後ろへ振り向くと、深緑色の服を着た背の高いおじ様が立っていた。

背中にはリュックを背負っていて、眼鏡の奥で光る紅い瞳が不思議そうに私を見つめている。

すると若葉が彼を警戒するように、私の前に立って擬人化した。

でも彼は若葉の擬人化を見ても特に驚いた様子も無く、むしろ微笑ましそうに目を細めるだけだった。

ミライドンを見た時に、微かに驚いた顔をしたのが少し気になったけれど。

「おじさん、誰?」

「……あぁ、驚かせてすまないね。何か困っているようだったから声を掛けたんだけど」

彼の口から発せられるバリトンボイスが、重低音を伴って耳に響く。

でも不思議と威圧感は感じない。向けられている微笑んだ表情のおかげか、私は自然と今起きたことを口にしていた。

「実は……。ランチにサンドイッチを作ろうとしていたのですが、オリーブオイルを買い忘れてしまって……」

「なるほど、それで困っていたんだね。
オリーブオイルなら、僕が持っているもので良ければ分けてあげるよ」

「えっ、よろしいのですか?」

「もちろん。……はい、どうぞ。
明日新しく買う予定だから、使い切ってしまって良いよ」

おじ様の手から、オリーブオイルのボトルを受け取る。

「あの……ありがとうございます、おじ様。とても助かりましたわ」

「"おじ様"、か……。そんな風に呼ばれたことが無いから、何だか照れくさいね」

頬を指でポリポリと掻きながら、おじ様はへにゃりとその相好を崩した。

何だかとても優しそうな方だなぁ。……あっ、そうだ。

「よろしければ、おじ様もご一緒にいかが?
先をお急ぎなのでしたら無理にとは言いませんが……」

「そうだな……。僕もそろそろお昼にしようと思っていたし、お嬢さんたちさえ良いなら是非」

「はい……!」

私の隣に座ったおじ様がリュックからランチボックスを取り出す。

中に入っていたサンドイッチは、とても見栄えが良く美味しそうだった。


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