03
その後は、ドオーと世間話をしながら過ごした。
このエリア付近のポケモンのことや、ドオーの住む沼地の話を色々聞かせてくれて。
その代わりに私はアカデミーの話や人間がどんな生活をしているのか、そんな話を語って聞かせた。
自分と種族の違う相手の暮らしはドオーにとって興味深いようで、"へぇ、人間の暮らしも楽しそうだねぇ"と笑顔で聞いていた。
「そういえば、コジオはどこまで行ったのかしら?」
『心配しなくても大丈夫だよぉ。土地勘はあるし、この辺りで暮らし始めてから結構経つからねぇ』
『戻った』
洞窟の入口から声が聞こえて振り返ると、コジオの姿が見えた。
ザザッ……ザザッ……という音を立てて何かを引き摺ってるみたいだけど……。
『あっ、おかえりコジオ。どこ行ってたのぉ?』
『腹が減ったから木の実を取りに行っただけだ。……ほら、お前も食え』
「えっ? わっ、と、と……!」
コジオは器用に何かを私の方へ弾き飛ばした。
慌てて取ろうとしたそれは、ベシャッという音と一緒に私の手へ収まる。
桃色をした、小さな果物のようだった。
『もうコジオ。モモンの実は柔らかいんだから、丁寧に扱わないと潰れちゃうよぉ』
『……別に腹に入れば一緒だろ』
ドオーとコジオの会話を聞きながら、手元の果物を眺める。形だけ見るとなんだか桃みたい。
せっかくもらったのだし、とモモンの実? を1口かじる。口の中に甘い香りとたっぷりの果汁が広がった。
「……美味しい」
遭難中だという自分の現状を忘れ、自然に口角が上がるのを感じる。するとドオーが"やっと笑ったねぇ"と目を細めた。
若葉たちを探さなきゃって必死ではあったけど……そんなに険しい顔だったのかな。
「そ、そんなに変な顔をしていたかしら?」
『変な顔って訳じゃないけど、思い詰めてるような顔だったよぉ』
『焦ったって良いことは無いし、状況は変わらん。
ニャオハが見つかるまでは面倒見てやるから、お前は今できることをしろ』
「今、できること……」
確かにここでジッとしてても何も変わらない。
そもそも歩けるようにならなければ、若葉たちを探しに行くこともできないんだ。
「そうね……うん!」
首元のネクタイを外して、できるだけキツめに足首へ巻き付ける。
とりあえずの応急処置だけど何もしないよりは良い。
あとは、崖に沿っていけばなんとか移動はできるはずだ。
「ドオー、コジオ、行きましょう」
『えっ、大丈夫なのぉ?』
「応急処置は済ませたし、ゆっくりなら移動できるわ」
『でもぉ……』
『コイツが良いと言うなら良いんだろ。日が沈み始める前に……』
おーい!
どこからか、聞き馴染みのある声が聞こえた気がした。
気のせいかと思っている間にも、その声はどんどん近付いてくる。
「シオン、いたら返事して! シオン!」
「! ネモ!?」
明るくて活発で……いつも私に元気をくれる、そんな声。
間違いない。ネモの声だ……!
「ネモ! 私はここですわ!」
なんとか洞窟から出て、声のする方へ思い切り叫ぶ。
すると崖の上の方からネモがひょっこりと顔を出した。その隣では擬人化した若葉が私のカバンを背負い、ミライドンに乗っている。
「シオン、大丈夫!?」
「えぇ、なんとか……!」
「とにかく、すぐそっち行くから! ミライドン、頼んだよ!」
『任せて!』
ミライドンがネモを乗せ、あっという間に崖を飛び降りて来る。
若葉はミライドンから降りると、一目散に私の方へ走ってきた。
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