03
ジニア先生と別れ、ネモと合流する。
擬人化の話をしながら門を出たところで、話題は宝探しへ移っていった。
「そういえば、課外授業の宝探しですが……。
具体的にはどのようなことをすればよろしいの?」
「そっか、シオンは初めてだもんね。
宝探しと言っても本当に宝がある訳じゃなくて、パルデアを自由に冒険して色んなことを体験すれば良いの!」
「……つまりは、思い出作りの一環ということでしょうか?」
「まぁそんな感じかな。ジムに挑戦したり、困ってる人を助けたり……本当にお宝を探しちゃうのもアリ!
私にとっても最高のイベントなんだ」
確かに。ポケモンバトルが大好きな彼女にとって、ジムに挑戦できるというのはとても楽しい時間なのかもしれない。
私はまだ方向性が定まっていないし、何をすれば良いのかも分からないけれど……。
若葉たちとの思い出作りと考えれば、これほど楽しみなことはなかった。
「スマホロトムはナビ機能もあるから、この前登録したジムの場所を目的地に登録してみたら?」
「そうですわね。それも良いかも……」
「生徒会長ネモ! 抜け駆けとは卑怯だな!」
私たちの会話に、別の声が割って入る。
どこかで聞いたことのあるその声に振り返れば、視線の先にペパーさんが立っていた。
「うわっ、ペパー!?」
(うわっ、って……)
ペパーさんは私たちの方にズンズン近付いてくる。そしてネモをキッとねめつけた。
「抜け駆けって人聞きが悪いな! ジムをオススメしてるだけ!
何をするのかはシオン自身だもん!」
「シオンは俺とヌシポケモン探してスパイスちょろまかすんだ。チャンピオンになってる暇無いぜ。
秘伝スパイスを守るヌシの住処、一緒に行くんだもんな!」
「えっ! あ、あの……」
私としては、まずパルデアの景色を見に行きたいのだけれど……。
それにジムに挑戦するにしても、ヌシを探すにしても、若葉だけでは(恐らく)戦力が足りない。
せめてもう1人、新しいポケモンを仲間にしてからにしたいのが本音だった。
「ちょっと、ズルい! シオンに変なこと教えないでよ!」
「はぁ!? 誘ってるだけで決めるのはシオン自身だろ?」
「ふんぬー!」
まずい……。このままではケンカに発展しかねない。
と、とにかく今は彼らを止めないと!
「あの、お2人とも……!」
ロトロトロト……ロトロトロト……
私のポケットで、スマホロトムが着信を告げる。
2人もその音に気付いたようで、ペパーさんが"スマホ鳴ってんぞ"と教えてくれた。
画面に表示された番号は、非通知−−。
(まさか……)
非通知で連絡してくる相手は、1人しか心当たりがない。
彼(彼女?)には言いたいこともある。ひとまずスマホロトムを取り出して、通話ボタンをタップした。
「……もしもし?」
《やぁ、シオン。カシオペアだ》
電話の相手は、思った通りの人物だった。
コードネーム・カシオペア。スターダスト大作戦の話を持ちかけてきた本人で間違いない。
《以前伝えていたスターダスト大作戦についてだ。
スター団には5つの組があり、アジトもそれぞれ分かれている。貴女にはそこへ向かい、組のボス5名を倒して欲しいのだ。
ボスたちは組の名前となっているポケモンタイプの使い手だが……貴方ならきっと大丈夫だろう》
「カシオペア、その件についてですが……」
口を挟ませない勢いのカシオペアに、それとなく待ったを掛けようとする。
けれど相手は意に介していないかのように強引に話を続けた。
《というわけで、勝手ながらアジトの場所を登録しておく》
「ちょっと……!」
スマホを操作していないのにマップアプリが開かれ、スター団のアジトらしき場所が登録される。
……やっぱり、私のスマホをハッキングしているとしか思えない。
《ボスを倒す度にたんまりと報酬を差し上げよう》
「いや、いきなり誰なの!? スター団って不良で危ないし、シオンには関係ないよ!」
「そうだそうだ! コイツは俺と一緒にすげぇ食材を探すんだよ!」
私とカシオペアの通話にただならぬ雰囲気を感じたのか、ネモとペパーさんが猛然と抗議してくれる。
……ペパーさんの主張の内容は、さっきまでと変わっていなけれど。
《決めるのはシオン自身……だったかな? ネモ、ペパー》
「なんで私たちの名前……!」
《シオン……貴女の活躍を楽しみにしているよ》
一方的に会話を切られ、通話終了のツーツーという音が鳴り響く。
私の名前だけじゃなくて、ネモとペパーさんの名前も知っているようだけど……。
カシオペア……一体何者なのだろう。
「何だったんだよ……」
「シオン……友達が多いのは良いけど、危ないことに深入りし過ぎないでね」
「……えぇ。分かっています」
私の返答にネモが静かに頷く。そして次の瞬間にはいつもの元気な彼女に戻っていた。
あの切り替えの速さはさすがだなぁ、とつくづく思う。
「さあて、気を取り直して! 冒険の始まりをしよーっ!
私は出会ったポケモントレーナーと片っ端から勝負していく!
最強を追い求めていれば、その経験が自分だけの宝物になるはず!
あっ、そうだ! ジムの建物の写真、後で送っとくね」
「えっ、あ……はい。ありがとうございます」
「色々口出しちゃったけど、決めるのはシオンだから。
行きたいところに行って、やりたいことをやっちゃえ!」
「自分だけの宝……ねぇ」
ペパーさんがポツリとそう呟く。
その表情はどことなく憂いを帯びているように見えて、思わず首を傾げてしまった。
「あの……ペパーさんにも見付かると良いですわね。自分だけの、素敵な宝物」
「……なんか気ぃ使わせたみたいで悪ぃな。
俺の場合はマ……秘伝スパイスに決まってる! スパイス見付けたら、約束通りうーんと美味いサンドイッチ作って食わせてやるからな!」
そういえば彼はお料理が得意なのだっけ……なんて思っていたら、突然ミライドンがボールから飛び出してきた。
「み、ミライドン!?」
「げっ、なんで出てくんだよ!」
「あはは! サンドイッチって言葉に反応したのかな?」
考えてみれば初めて会ったあの日から毎日のようにサンドイッチを食べていたし、もしかしたらあれがきっかけで好物になったのかもしれない。
ミライドンが"サンドイッチ……"と呟きながら、ペパーさんをジーッと見つめた。
「お前にはやらねー……」
『ちぇー。それよりシオン、早く行こうよ!
今度はオレが乗せてあげるからさ!』
「ミライドンも早く行きたいみたいだね。乗れって言ってるのかもよ?」
「で、では失礼して……」
恐る恐るミライドンの背中に乗り、横から伸びている部分を手綱として掴む。
するとミライドンの姿がバイクのように変わった。もしかしたら、これが博士の言っていた"ライドフォルム"なのかもしれない。
『よーし、準備OK!』
「おー、変形した! やっぱモトトカゲっぽい……!
ミライドンと一緒ならどこにだって行けそうだね!」
「フン、どうだかな……。
そうそう、ヌシポケモン探すなら東門から出ると良いぜ。そこが1番近いからな」
「ジムに行くなら西門から出発がオススメだよ。セルクルジムが1番近いし、東側は迷いやすいから」
「先行ってっから早く追いついて来いよな!」
「私も早速ジムに向かわなきゃ。またね、シオン!」
ネモとペパーさんがそれぞれ反対方向に走っていく。
私はそんな2人の姿を、ミライドンに乗ったまま見送った。
[*prev] [next#]
TOP