01

グレープアカデミーに入学して、しばらく経った頃−−。

個性的な先生方の授業を何度か受け、ネモを始めとするクラスメイトたちとも少し打ち解けてきた。

基本はネモが率先して話し掛けてくれることが多いけれど、彼女が生徒会の集まりで不在の時は他の子も声を掛けてくれる。

男女混合のメンバーでランチやディナーの時間を過ごすことも少しずつ増えてきて、パルデアでの暮らしも慣れてきているように思う。

……とはいえ私にとっては驚くことや知らないことも多くあって、そこをクラスメイトたちがフォローしてくれることも少なくはなかった。

何よりも驚いたのは、物の値段。パルデアに来てからは自分でお買い物をすることも増えたのだけど、同じ商品でも私の想定する値段よりも格段に安いのだ。

つい元の世界にいた時の感覚で商品を買おうとしてしまい、私はこの数日間で"お財布と相談する"ということを覚えたのだった。



「た、大変だー!シオン起きてー!」

「キャアッ!? えっ、なっ、何……!?」

突然聞こえてきた大声に、微睡みの中から叩き起される。

目に飛び込んで来たのは"なにぃ〜?"とまだ眠そうにしているミライドンと……。

「シオン、僕姿変わっちゃった!」

私より年下であろう男の子だった。さっき聞こえた声と同じだから、私を起こしたのは彼なのだろうけど……。

「ど……どなた!?」

寝起きの頭ではろくに物を考えられるはずもなく、男の子を前に目を白黒させることしかできない。

昨日の夜の時点では私の他には若葉とミライドンしかいなかったし、部屋のドアも窓も鍵を閉めていたはず。

ど……どこからどうやってこの部屋に入ってきたの!?

「どなたってひどーい! 若葉だよ!
もう僕のこと忘れちゃったの!?」

ぷくぅと頬を膨らませて、怒ったような拗ねたような表情をする男の子。

黄緑色の髪と桃色の瞳は、確かに若葉と同じだけれど……。

「わ、かば……えっ、本当に若葉!?」

若葉って"ニャオハ"のはずよね? ポケモン、よね……?

どうして人間の姿になっているの?

「そうだよ! 僕も起きたらこんな姿になってて……」

「……。ねぇミライドン、ポケモンって人間の姿にもなれるの?」

『わ、分かんない……。オレも初めて見た』

若葉の身に突然起きたこの現象、誰に聞けば良いのだろう。

ネモ? それともジニア先生? あぁ、頭が上手く働かない!

「と、とにかく身支度を整えないと! ネモと朝食の約束もしてるし……」

制服を片手にワタワタと着替え、顔を洗って歯を磨く。

その途中で校内アナウンスが入り、全員グラウンドに集まるようにとのことだった。

姿見でおかしなところが無いかを念入りにチェックしかけたところで、部屋のドアをノックする音が聞こえた。

「つ い に 来 た ー ! おっはよー、シオン!」

「ご機嫌よう、ネモ。ごめんなさい、もう少しで身支度できますから……」

「まだ時間あるから焦らなくて大丈夫だよ。お邪魔して良い?」

「えぇ、もちろん。私もちょうど、ネモに聞きたいことがありますし……」

「なになに? バトルのことなら何でも聞いて!」

「あ、いえ……バトルのことではないのですけれど……。実際に見ていただいた方が良さそうですわね」

ネモを部屋に招き入れ、若葉を呼んで手招きする。

素直にこちらへ歩いてきた彼を見て、ネモの琥珀色の瞳が大きく見開かれた。

「えっ、誰? シオンの知り合い?」

「それが……若葉なんですの。本人もそう言っていますし」

「若葉……って、シオンのニャオハだよね? なんで人間の姿になってるの?」

「それをお聞きしたかったのですが……」

ネモの様子を見ていると、彼女も初めての経験みたいだ。

ここはやはりジニア先生に聞いてみるしかないのだろう。生物学の講義をなさっているし、ポケモンの生態には人一倍詳しいはず。

「……お待たせしました、ネモ。それでは行きましょうか」

「オッケー! ……って言いたいけど、若葉はそのままで良いの?」

「あ……」

そうだった。今の若葉は人間の姿になっている。

おまけに制服を着ていないから、部外者だと勘違いされる可能性も捨て切れなかった。

「若葉、ニャオハの姿に戻ることはできないの?」

「んー……ちょっとやってみる」

若葉がそっと目を閉じて、少しの間沈黙が流れる。

グニャリの若葉の姿が歪んだ次の瞬間、ニャオハの姿に戻った彼がいた。

『あ、戻れた』

「……フフッ……アハハハ!」

「えっ、ネモ……?」

突然笑いだしたネモに戸惑っていると、彼女は"ゴメンゴメン"と言った。

ミライドンも私の隣で"何か笑うとこあった?"と不思議そうに首を傾げている。

「シオンと出会ってから予想外なことばっかりだなって。
今までだって楽しいことたくさんあったけど、君と一緒ならもっと楽しくなりそう!
詳しいことは後でジニア先生に聞くとして、今は朝ご飯食べに行こっ!」

「そう、ですね……。遅れてしまっては大変ですし。
若葉、ミライドン、ボールに戻って」

『『はーい』』

2人がボールに戻るのを確認して、部屋を出る。

今日から課外授業が始まることもあって、私たちの足取りはとても軽やかだった。



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