08
フトゥー博士との通話が終わり、校長室を出ようと踵を返す。
するとゆっくりとドアが開いてネモが顔を見せた。
「失礼します! ……あ、シオン!」
ネモは私の方に近付き、ニコニコと笑う。
彼女の笑顔を見ていると、こちらも自然と笑顔になるから不思議だ。
「入学早々、校長室に呼び出しなんて悪いことでもしたの!?」
「えっ!? ち、違っ……!」
慌てて否定する私を見て、ネモは笑顔のまま"冗談だよ"と返す。
からかわれたのだと気付いて思わず頬を膨らませると、"ゴメン、ゴメン"と眉を下げた。
「ところで、私に何かご用ですか?」
「ジニア先生から寮の部屋を案内するように言われたんだ。
シオンのマイルーム、一緒に行ってみようよ!」
「えぇ、是非お願いしますわ」
クラベル校長にご挨拶して校長室を後にする。
ネモと他愛の無い話をしながら、寮の自室へと向かった。
とある扉の前で止まり、"ここがシオンの部屋だよ"と開けてくれる。
素朴な雰囲気ながらも、陽の光の暖かみを感じる部屋だった。
「んジャカパーン! どう、良い部屋でしょ?」
「はい! 内装もインテリアも素敵ですわね」
「でしょー? シオンなら絶対気に入ってくれると思ってたんだ!
……って、私も初めて入るんだけどね。
学校初日から色々あって疲れたでしょ? 今日はゆっくり休んで。
明日からはいっぱいポケモンバトルしよっ!」
「フフッ、そのためにも授業でしっかり勉強しなくては」
"じゃあ、また明日ね!"と言ってネモが退室していく。
私は彼女を見送ると、若葉たちをボールから出した。
「2人も、今日はゆっくり休んでね。隣の部屋の迷惑になるから、大きな音や声は出したらダメよ」
『はーい』
『分かった。……ねぇシオン、何個か聞いても良い?』
「何?」
『何でオレたちと話す時と、さっきの……こーちょーせんせー? たちと話す時で話し方違うの?』
「……!」
驚いた。若葉が何も言わないから、てっきりミライドンも気にしてないんだと思っていたけれど……。
(やっぱり気になってしまうのかしら……)
元の世界にいた時はいわゆる"お嬢様口調"で話すのが当たり前だったし、使用人以外の人たちとフランクな口調で話すのははしたないことだって両親から教えられてきたから。
私はもう少し気軽な友達付き合いがしたかった。それこそ、ネモのように。
でも両親の目があったことと社交の場に出席する機会も増えていたのもあって、そんなことは許されなかった。
"我が財閥の令嬢として生まれたからには、常に完璧な淑女であれ"−−。
それが両親の教えであり、そのためには本当の自分を隠して生活しなくてはならなくて。
やはり、それが習慣として身に付いてしまっているのだろう。
「目上の人に失礼の無いようにするには、あの話し方の方が良いのよ」
『ふーん? オレよく分かんないけど、そういうものなんだ?
じゃあ、次。シオンってオレの言葉が分かるみたいだけど……。
博士やラボの人たちは分からないみたいだし、何でなのかなって』
「それは……」
あぁ、そうか。私がポケモンの言葉を理解できることを知っているのは、数人しかいない。
ネモとクラベル校長……。ポケモンも含めるなら若葉と、その同期のクワッスとホゲータくらい。
ミライドンと会ったのはその翌日だったから、そのことを知らないんだ。
「何で……なのかは、私も分からないけれど……」
『そっ、か……。
でもシオンがその能力を持って生まれたのって、何か理由があるんじゃない?
それがこの先、きっと大きな意味を持つようになる……そんな気がするよ』
「そうなのかしら……」
ポケモンの言葉を理解する能力と、オーブも無しにテラスタルを使うことができた理由。
そして、私がこの世界に来た意味。
パルデアで日々を過ごしていれば、いつか分かる時が来るのかしら。
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